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パンスペルミア説 [科学系よもやま話<生命の起源・進化>]

パンスペルミア説について、先日少し紹介しましたが、折角なので、もう少しお話させて下さい。かなり長文になりますが、お付き合い頂ければ幸いです。

パンスペルミア(panspermia;pan 汎,spermia 胚種)とは、要するに地球外で発生した生物,或いはその元(胞子など)の事。宇宙に漂うパンスペルミアが、地上に降り注ぎ、そこから地球上の生命が花開いたという考えが、パンスペルミア(仮)説です。また、生命そのものではなくても、アミノ酸や核酸塩基、糖などの生体高分子の構成成分の由来を宇宙に求める場合も、パンスペルミアに含めるようです。
 
私が最初にこの名前を聞いたのは、今からもう20年以上も前のこと。

それは、学術書ではなく、単なるアニメなのでした。1988年に発売された一本のVHS。押井守監督、原作・キャラクターデザイン原案:ゆうきまさみ氏のこのアニメは、『機動警察パトレイバー』。その第三話『4億5千万年の罠』の中で聞いたのが最初です。

この作品や原作者についても、色々語りたい気持ちもありますが、この場では割愛させていただきます。
とにかく、このアニメの中で、マッドサイエンティストの平田博士(風貌は、日本が誇る怪獣映画『ゴジラ』に登場する芹澤博士。平田昭彦が演じていたから平田博士w)は、4億5千万年前の地層で発見された隕石中から、生きた微生物を発見。これを人工的に世代交代を繰り返し、パンスペルミア説の実証を試み、最終的に怪獣を作ってしまうんです。

まあ、おふざけを取り除くと、パンスペルミア説を分かり易く、且つ面白く説明してあって、まだ学生だった私の心に、パンスペルミア説をいう言葉を刻みつけたのでした。
 
そして、10年程時が流れ、次に出会ったのが、1998年に徳間書店から出版された『生命(DNA)は宇宙を流れる』(フレッド・ホイル著,チャンドラ・ウィクラマ・シン著)

この本はパンスペルミア説と定常宇宙論に基いて書かれていて、一見すると、とんでも本か!って内容なんです。インフルエンザの流行周期が、彗星が接近する周期と重なるから、宇宙空間からウィルスが降ってきているとかね。
著者はケンブリッジ大学、天文学研究所の創設者にして、SF小説家でもあるフレッド・ホイル(http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/fred_hoyle.html)。ホントか~と思いながら、否定しきれなかったりして、面白く拝読させて頂きました。流石に、SF小説作家って感じ。

いずれにしても、面白いけど怪しい仮説ってイメージでした。でも、色々調べるとなかなかこれが面白い!
 
従来、支持されてきたのは、自然発生説です。これは、アメリカのハロルド・ユーリーとスタンリー・ミラーの実験に基くもので、原始地球の大気中(二酸化炭素,窒素,一酸化炭素,水蒸気等と考えられる)に、放射線や紫外線のエネルギー,火山などの熱エネルギー,雷による放電のエネルギーなどの作用でアミノ酸がつくられ、それらを材料に生命が発生したという物です。

これに対し、分が悪かったパンスペルミア説ですが、近年非常に注目を浴びています。

それには幾つかの理由があります。
1.極限環境で生きる生命(微生物)が多数発見された。現在は、地球でさえ全球凍結の時代があり、生命はそれを乗り越えてきたと考えられています。
2.成層圏でも微生物が存在する事が分かってきた。つまり、極小さい物質は、人工的な方法に拠らなくても宇宙を航る事ができるかもしれないのです。
3.38億年前の物と思われる炭素化石が発見された。つまり、従来考えられていたより遥かに速い段階で生命が存在したと思われるわけ。
4.隕石中に、生命の痕跡と思われる構造が発見された。紫外線など生命や物質を分解・変質させる環境である宇宙空間をそのまま越えるのは難しくとも、隕石の内部でヌクヌクと生きて地球にたどり着く可能性がある訳です。まあ、これには反論も多いんですけどね。

他にも理由はあるでしょうが、一時は傍流だった、パンスペルミア説が近年見直されているのは確かです。
生命を誕生させる全てを地球上で行なうより、宇宙から材料或いは微生物そのものが飛来したと考える方が無理がないのでは?という訳です。

しかも、この説にはオマケがついてきます。
即ち地球外生命体を太陽系内で発見できる可能性です。

もし、宇宙空間に生命やその材料がありふれた存在であるならば、地球外生命体が存在する確立は非常に高くなります。この場合、逆に太陽系に存在する微生物の供給源が地球であっても良い訳です。地球の引力圏を振り切って他惑星などに飛来した微生物が独自の進化を辿れば・・・地球印のエウロパ生命体が居るかもしれません。
 
近年、彗星や小惑星の探査衛星が多数打ち上げられています。例えば、1992年に打ちげられ、2006年にヴィルト第2彗星のサンプルを持ち帰った彗星探査機『スターダスト』,欧州宇宙機関(ESA)の探査機で、
彗星『67P/Churyumov-Gerasimenko』(チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星)を観測するために2004年に打ち上げらられた『ロゼッタ』
,無事帰還する事を期待されているJAXAの小惑星探査機『はやぶさ』など。

一つには太陽系創生のメカニズムを探るという目的がありますが、他にも生命の痕跡或いは微生物が見つかるかもというのも、その理由の一つでしょう。近年の宇宙探査の一つのテーマとして、パンスペルミア説の検証が挙げられます。

これから10年で、これらの探査機による様々な発見があるでしょう。その結果がどんな物か、いまから待ち遠しいですね。
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北海道大好き人間

仮に宇宙に生命の源が散らばってある天体に降り注いだとしても、その天体が生命が生きていくのに適した条件でなければダメですね。
分かりやすくたとえれば、カビの菌は地球上にいくらでもありますが、砂漠や北極・南極では繁殖しにくいのと同じです。
ですから、地球と同じ条件の天体があれば、そこに生命が宿っているかも知れませんね。
by 北海道大好き人間 (2009-12-19 17:30) 

kaika-t

こんばんは。^^
パンスペルミア説はまるでSFか!  と思ったら、本当にSF作家の方が(笑)。前回の記事でご紹介して頂いたサイト、とっても面白いです。ミステリー小説みたいです。こうしてみると、科学も読書好きの私にとってとても身近かも。とっても不思議がたくさんありますね。*^^*
 
by kaika-t (2009-12-19 21:45) 

optimist

北海道大好き人間 さん、こんばんは。
そうですね~。でも光合成に頼らない生態系で進化が進んだ星とか色々想像するのは楽しいです。

kaika-t さんこんばんは。
SF作家というか、科学者兼作家というか・・・。アイザック・アシモフ氏もそうですが、SF作家は科学者と通ずる物があるのでしょうね。
私はSFといっても、背景にある程度科学的考証があって、リアルに書かれている物が好みだったりします。

by optimist (2009-12-19 23:52) 

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