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「ダーウィンが提唱した自殖の進化」を解く鍵は花粉遺伝子の変異 [科学系よもやま話<生命の起源・進化>]

「ダーウィンが提唱した自殖の進化」を解く鍵は花粉遺伝子の変異(pdfファイル)』

今日は、先週(グリニッジ標準時4月18日午前2時)、英国の科学雑誌『Nature』の電子版(Advance OnlinePublication, AOP) に掲載された、東北大学大学院生命科学研究科など国内外の8つの大学の共同研究について、ご紹介します。

この研究では、自家不和合性に影響を与える遺伝子を特定し、その鍵となる遺伝子を変異させる事で、本来他殖性植物のシロイヌナズナを自殖可能な自家和合性種とするこを証明したそうです。

自家不和合性とは、雌雄両生殖器官(雌蕊と雄蕊)が正常に働いていても、自己の花粉では受粉せず、他の花の花粉でしか受精し結実しないという性質です。

多くの被子植物では、ひとつの花の中におしべとめしべが同居しています(以下に一般的な被子植物の花の模式図を載せました※出典・引用『かがくナビ』)。
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出典・引用『かがくナビ(リンク)』
もし、自家不和合性がない場合、自分のおしべの花粉がめしべについて受粉しやすい構造なので、自家受粉して近交弱勢の出やすくなり、不利に働きます。そこで、自家不和合性種では、もし自己花粉がめしべについた場合にでも、受精を回避できるよう分子レベルの自己・他者の認識機構があるわけです。つまり、強い近親交配に相当する自植を避けるために高等植物が獲得した機能なんですね。
例えば『プランター菜園でトウモロコシを育てるなら、一本だけでは駄目。二本植えしなさい。』なんて言われるのも、トウモロコシが自家不和合性を持つからです。

著者らは、この機構を制御する遺伝子を特定し、それを変異させる事で、自家不和合性の有無をコントロールできる事を発見したんです。

さて、近交弱勢の出やすい自殖性植物ですが、特定環境では有利に働きます。それが1876年にダーウィンによって提唱された仮説です。曰く、交配相手が少ない条件下では自殖が繁殖に有利な性質となる。交配すべき他の個体が極端に少ない場合、受粉の機会を失うデメリットが近交弱勢の出やすいというデメリットを上回り、自殖が有利となるという考えです。

今回特定された遺伝子配列から、著者らがシロイヌナズナが自家和合性を獲得した時期を推定すると、氷河期と間氷期の周期によって分布が急速に変化しているという結論を得たそうです。つまり氷河期となり交配相手が少なかった時期と、自家和合性を獲得した時期が一致したというわけ。上記のダーウィンの仮説を支持する結果と言えます。
 
余談になりますが、自殖性或いは他殖性植物という分類をしました。しかし、厳密には自然界において、この分類は絶対的なものではありません。自殖性でも、ある程度交雑種は発生しますし、実際は両者の間に境目はなく、他殖性の極めて種から自殖性の極めて高い種まで連続的に様々な植物があると言うべきでしょう。様々な比率で他殖と自殖を混ぜて結実する混殖性というのが正解かもしれません。

これが、一定割合で発生する遺伝子の変異に基くならば、遺伝子を書き換えた種では絶対的な自殖或いは他殖という形質を持たせる事も可能になるかもしれませんね。
また、イネのように人類が栽培をしてきた結果、自家不和合性が低くなった作物は数多くあります。そこで、今回発見された遺伝子を変異させることで、再び自家不和合性の形質を持たせられれば、これまでより品種改良の効率を高める事だって出来るかもしれません。

色々な発展が期待できそうです。今後どう進展していくのか興味は尽きません。

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コメント 3

茶猫

こんばんはー
とうもろこしって確か「自家不和合性」の性質でしたよね?
た、たしか。。。(^^;
このあたりのこと分かっていないと、いくら育てても
「あれー?実がならいないー?」って事に落ちいっちゃいますよね。

optimistさん、相変わらず博学だなぁーー。

by 茶猫 (2010-04-23 23:54) 

optimist

茶猫 さん、こんばんは。
トウモロコシ、その通りですね。
我が家のベランダでも、と思ったこともありましたが、たった2本育ててもと思い止めたのを思い出して、これを書いてました。

by optimist (2010-04-24 21:42) 

北海道大好き人間

今、ちょうど花が咲いていますが「栗」もそうです。>自家不和合性

でも、トウモロコシを見ればわかりますが、雌花の真上に雄花が咲いているので、あの花粉が直に雌花に降りかかって受粉するのでは?と、誰しもが思いますよね。
by 北海道大好き人間 (2010-06-15 00:21) 

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