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暗闇で56年、1300世代経たハエの求愛行動に変化 [科学系よもやま話<生命の起源・進化>]

このニュースになっている京都大学の暗闇ショウジョウバエは、最近よく話題になるのを目にします。昨年も分子生物学会で研究発表されたというニュースがあったのを覚えています。

この「暗黒ショウジョウバエ」は1954年、理学部動物学教室の故森主一教授が飼い始めたものを、代々引き継がれながら56年にもわたり飼育されたもので、光のない環境が進化にもたらす影響を調べる研究が続けられています。
近年、その個体群では、「感覚毛」が1割ほど伸び、生殖行動に変化が見られたとそうです。暗黒ショウジョウバエは出会いから交尾までの時間がわずか約3分間(通常の個体は約20分)と短い上、暗闇ショウジョウバエを通常のハエと一緒に飼ってもほとんど交尾しなくなっていたと言います。

ところで、キイロショウジョウバエは、遺伝学の研究で好まれます。それは何故でしょう?
首都大学東京のWeb Site内で、このようなショウジョウバエを使った研究について、分かり易くまとめられた解説があるので、ご紹介します。
首都大学東京 ショウジョウバエ(Drosophila)(リンク)』
ここでは、キイロショウジョウバエが遺伝学で好まれる理由が幾つか挙げられています。その理由の一つが、世代交代のサイクルが短いということ。常温で飼育すると、卵が生まれてから10日程で成虫になり、繁殖可能となります。そのため、1年間で30代近くの世代を重ねることも可能です。人間の一世代が20年~30年とすると600~1000倍近い速度で、世代も代を重ねることができるんです。

京都大学の今福道夫 名誉教授は、京都大学理学部の広報の中で、暗闇ショウジョウバエにつて「人間の1世代を25年とするなら、数万年前に洞窟に入り込んだまま一度も外を見ずに過ごしてきたクロマニョン人に相当する。彼らの視覚はどうなっているだろう。彼らは手探り能力を発達させているだろうか。こんな魅力的な材料は世界中どこを探してもない。最近になって、このハエの行動や遺伝子が調べはじめられてきた。この貴重な材料は、目先の成果のみに捉われない当研究科の誇るべき財産だと信じている。」と述べられています。
数万年前に洞窟に入り込んだまま一度も外を見ずに過ごしてきた人類と我々人類が出会ったら?それに類する事が、検証できるというのは、なんとも不思議で面白いですね。

ところで、世代交代が早いと言っても、56年間14000世代もの飼育をするというのは、大変な事です。
今でこそ注目され、2007年に文部科学省の「グローバルCOE」として、京都大で生物の多様性と進化について始まった研究プロジェクトとして遺伝情報(ゲノム)などを総合的に調べる研究が行われています。しかし、56年もの長期間、暗闇の閉鎖環境で世代交代を続けてこられたのは、研究者らの力によるものです。

今ここに、暗闇ショウジョウバエが居るからゲノム解析を行う予算が貰えます。しかし、最初からこのような研究をするので予算を求めても、決して認められる事は無いでしょう。リターンが不明確な上に長期間を経ないと結果が出ないからです。

では、どうして京都大学で50年以上にもわたり、暗闇での飼育が続けられてきたのでしょう?
私見ではありますが、それは研究者の知的好奇心・知識欲のなせる業ではないでしょうか?大学の研究者は、お金を貰って研究をする反面、成果を求められます。しかし、予算が着いた研究だけしたのでは、暗闇ショウジョウバエはできなかったでしょう。研究者の無償の研究(見方によっては、本来使うべき労力・資金の研究目的外使用,或いは使用範囲の拡大解釈)があってこそ、今「暗闇ショウジョウバエ」という貴重な成果が得られたのだと思います。

企業だけでなく、大学や研究機関でも、費用対効果が唱えられ、すぐに成果を求められる世の中です。しかし、研究者のアンダーグランドの研究から、新たな発見が得られる事もある。一見無駄に見える物の中にも貴重な物があることを 忘れたくは無いものです。

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コメント 3

北海道大好き人間

高校の生物の教科書における遺伝子に関する記述でショウジョウバエのことが多く引用されているわけがわかりました。
サンプル数が圧倒的に多く短時間で得られるというわけですね。
by 北海道大好き人間 (2010-09-08 23:13) 

optimist

北海道大好き人間 さん、こんばんは。
更に、得られた染色体は比較的単純な上に、飼育も簡単となれば良く使われるのも納得ですよね。
by optimist (2010-09-11 20:33) 

アヨアン・イゴカー

56年前始めたばかりの時は意味があまりないかもしれないと思われた研究が、大きな成果を生むことがあるかもしれませんね。これは愉快です。
by アヨアン・イゴカー (2010-09-13 02:50) 

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