SSブログ

「超新星爆発の元素合成は想像以上に速い」証拠をつかむ [科学系よもやま話<宇宙の話>]

今日ご紹介するのは、2011年2月1日に、独立行政法人 理化学研究所から発表された、RI ビームファクトリー(RIBF)を使った研究成果です。

理化学研究所プレスリリース『「超新星爆発の元素合成は想像以上に速い」証拠をつかむ-18 個もの中性子過剰原子核の寿命測定に世界で初めて成功-(pdfファイル)』

RIビームファクトリー(RIBF:Radioisotope Bbeam Factory)(リンク)』は、埼玉県和光市にある、理化学研究所仁科加速器研究センターの重イオン加速システムに、3基のリングサイクロトロン(fRC,IRC,SRC)とRIビーム生成分離装置 (BigRIPS)を付加したものです。
従来よりRIビーム発生能力を飛躍的に高め、ウランまでの全元素にわたって放射性同位元素を世界最大強度で発生させることが可能な、世界最高性能を有する施設です。
詳しくは、リンク先のパンフレットをご覧下さい。
RIビームファクトリー計画 パンフレット(pdfファイル)』

今回の報告では、原子番号36番のクリプトン(Kr)から43番のテクネチウム(Tc)までの放射性同位元素(RI)を発生させ、38個の中性子過剰なRIの寿命を測定しています(内18個のデータは、世界初)。
その結果、従来の理論予想に比べ2~3倍も速く崩壊が進む事が分かったというのです。
 
ところが、このデータを得るための測定時間はたったの8時間。なんと、全世界の過去20年分に匹敵するデータ量が8時間で得られちゃったんです(と書いてありました)。まあ、こんな比較に意味があるとすれば、費用対効果を気にする門外漢を黙らせる効果が期待できるってだけでしょうけど・・・。

詳しい話は、どうやっても難しくなっちゃうので、平たく説明すると、238U(ウラン)原始をとんでもなく加速させたビームをターゲットの9Be(ベリリウム)に、ドッカン!と当てたんです。
すると、普通には存在しない(寿命が短く、すぐに崩壊してしまう)放射性同位元素が出来ます。これを選別して、寿命を測定したんです。

で、何故これらの寿命が予測より速い事が、「超新星爆発の元素合成は想像以上に速い」に繋がるかと言うと、こんな感じ。

太陽系に存在する元素、特に鉄より重い質量数の元素は、超新星爆発に伴う重元素合成過程の結果、出来たと考えられています。『僕も星の子、君も星の子』と呼ばれるように、我々人間を含め、太陽系を構成する原子は、かつて星の爆発で出来たとする理論です。

赤色巨星になりながら中性子捕獲によって元素合成が行われるという(slow:低速)過程に対し、このような重力崩壊型超新星爆発で起こる元素合成は、高速に連続して中性子を捕獲しながら崩壊(β崩壊)するため、r(rapid:高速)過程と呼ばれます。そして、s過程に比べr過程は未解明の部分が多いそうです。

r過程は、軽い原子核から重いウラン領域の原子核まで、数千種もの中性子過剰なRIが一挙に生成され、その後、安定した原子核に落ち着くという理論です。しかし、その詳細なメカニズムを解き明かすには、中性子過剰なRIの寿命、質量、中性子放出確率などの諸データが十分に収集される必要があるんです。

ところが、従来の装置では、中性子が大過剰となるRIが作れなかったので、そのデータが不足していたって訳です。
そこで登場したのが、RIビームファクトリーです。大エネルギーでウラン領域の原子核までの中性子過剰なRIを作り、その寿命などを測定する事で、超新星爆発に伴う重元素合成過程と考えられる、r過程を解明しようとしています。

そう、つまり理論予想より2~3倍も速く崩壊が進むって事が分かったという事は、r過程がこれまでの想定以上に速く、重元素領域へと駆け上がっていく証拠と考えられる。つまり「超新星爆発の元素合成は想像以上に速い」証拠という訳です。

今後、更なるデータの蓄積で、我々の材料である太陽系の原子がどうやって作られたのか?が解明される日が来るかも知れませんね。

【送料無料】僕らは星のかけら

【送料無料】僕らは星のかけら
価格:945円(税込、送料別)


nice!(10)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 10

コメント 2

北海道大好き人間

我々の寿命なんて、宇宙の歴史から見たらほんの一瞬に過ぎないのですが、原子レベルでもそういうことがあるのですね。

by 北海道大好き人間 (2011-02-06 01:15) 

optimist

北海道大好き人間 さん、こんばんは。
宇宙の時間・大きさのスケール、原子や素粒子の時間・大きさのスケール、地質学や鉱物で扱う時間のスケール。
我々の普段の生活とはかけ離れたスケールを感じた時に、私は、なんとも言えない感動を覚えます。

by optimist (2011-02-15 22:01) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。