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ミラクリン [科学系よもやま話<味覚の話>]

その物自体は無味なのに、酸味を持つものを食べると甘味を感じる。皆さんもTV等でご覧になった事があるのではないでしょうか。

この不思議な味覚修飾物質は、横浜国立大学の栗原良枝教授らによって、初めてミラクルフルーツから単離され、Miracle Fruitの名に因み、Miraculin(ミラクリン)として1968年に米科学誌Scienceで発表されました。
Taste-Modifying Protein from Miracle Fruit(リンク)』(Science 20 September 1968 : Vol. 161 no. 3847 pp. 1241-1243 )
日本人にも関わりのある物質なんですね。

ミラクリンは191アミノ酸残基からなるタンパク質に糖鎖が結合した糖タンパク質で、分子量は24,600だそうです。
Miraculin.png
Miraculin(From Wikipedia, the free encyclopedia)

現在では、遺伝子工学を用いて、ミラクリン遺伝子をレタスに組み込んで大量発現させたり、ミラクリン遺伝子を組み込んだトマトなども作られています。
 
似たような効果が得られる物質として、Curculin(クルクリン)もあります。こちらは、クルクリン自身も甘味を呈する物質なのですが、甘味が消えた後で水を飲んだり、酸味を呈する物質を食べると甘味を感じるようになるそうです。水の場合は5分ほど、酸味の食物の場合は10分ほど甘味が持続するんだとか。
こちらは、114アミノ酸残基からなる分子量12,500程のタンパク質です。

これらの味覚修飾物質は、何故このような特性を持つのでしょう?
その秘密は、舌の上にある味覚受容体との関係にあります。では、ミラクリンを例に考えてみましょう。
尚、クルクリンについては、次回詳しくご紹介します。

酸っぱいと感じるのは、酸味受容体が活性化されるからです。で、活性化する物質というのが、プロトン。水素イオンですね。一概には言えないのですが、簡単に言えば、水素イオン濃度が高い程、酸味受容体が活性化されます。
対して、甘いと感じるのは、甘味受容体が活性化されるから。活性化する物質は様々ですが、水素イオンの様に、ある特定の物質というよりは、受容体と結合しやすい構造(部分)を持っている場合に甘みを感じます。高等動物ほど多くの物質を受容すると考えられ、ショ糖やブドウ糖などの糖、グリシンやアラニンなどの甘味アミノ酸は多くのほ乳動物の甘味受容体が活性化する事が知られています。
低カロリーの人工甘味料でも甘く感じるというのも、甘味受容体がと結合しやすい構造だからです。

舌の甘味の鍵穴にくっつきます。それだけでは何も味は変わりませんが、そこで酸っぱいものを食べると、酸とミラクリンが反応して舌の甘味の鍵穴を強く刺激します。そのため、酸っぱいものを食べているのにもかかわらず「甘い」という信号が脳に伝わります。

ミラクリンを食べると、甘味受容体に結合するもののそれを活性化する事はないそうです。だから甘く無い。で、その状態で酸を摂取すると、水素イオンがミラクリンと反応し(一部は、そのまま酸味受容体に結合しますが)、ミラクリンの構造が変化する事で、甘味受容体を強く活性化するのだとか。
つまり、ミラクリンは甘く無いけど、水素イオン(の供給源である酸)と反応すると甘みを感じるという訳です。

甘さを感じますが、糖では無いので、糖尿病などでカロリー制限されている患者さんに甘い食べ物を提供するなどの応用が期待されているそうです。
さて、この話題は、次回へと続きます。参考文献なども次回の最後にまとめて掲載させて頂きます。

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北海道大好き人間

前にも書いたと思いますが、サッカリンは水で薄めると甘く感じますが、結晶そのままでは苦すぎます。
あれと同じ様なモノなのでしょうか?

by 北海道大好き人間 (2011-05-28 09:31) 

optimist

北海道大好き人間 さん、こんばんは。
甘味が濃度で感じ方が変わるというのは、ご指摘の通りですが、
ミラクリンやクルクリンの効果とはちょっと違います。
記事でも書きましたが、直接甘味を感じるサイトに結合する事で、甘味を感じさせるというちょっと変わった働きによる物なんだそうです。
by optimist (2011-05-31 22:39) 

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