Ｃｕｒｃｕｌｉｎ（クルクリン），Ｎｅｏｃｕｌｉｎ（ネオクリン） [科学系よもやま話＜味覚の話＞]
今日は、前回ご紹介したミラクリンと同じ味覚修飾物質、Ｃｕｒｃｕｌｉｎ（クルクリン）について、もう少し詳しくご紹介します。
Ｃｕｒｃｕｌｉｎ（クルクリン）は、マレーシアなどのゴムの木の下に自生するキンバイザサ科の植物Ｃｕｒｃｕｌｉｇｏ ｌａｔｉｆｏｌｉａ（クルクリゴ）の実に含まれる味覚修飾物質です。
甘味を呈する物質なのですが、酸味を呈する物質を食べると、より甘味を感じるよる不思議な性質を持っているそうです。
その構造は、１１４アミノ酸残基からなる２つのタンパク質、クルクリン１とクルクリン２が、ジスルフィド結合でつながっているヘテロ二量体。
クルクリン１同士、やクルクリン２同士でホモ二量体を形成した場合には、味覚修飾活性を持っていません。そのため、クルクリン１とクルクリン２のヘテロ二量体を特にＮｅｏｃｕｌｉｎ（ネオクリン）と称します。また、クルクリン１，２は、酸性サブユニット（ＮＡＳ），塩基性サブユニット（ＮＢＳ）と表現される場合もあります。
※下の文献より抜粋したＮｅｏｃｕｌｉｎの二次構造
分かりやすくするため、ここではネオクリンとして説明しますね。
ネオクリンの形そのものは単子葉類のマンノース結合型レクチンによく似ており、ネオクリンがレクチンから進化した分子であると考えられています。また、酸味を呈する物質を食べると、より甘味を感じるという、ネオクリンの不思議な性質については、次のような推論がなされています。
東大大学院農学生命科学研究科のプレスリリース『味覚修飾タンパク質ネオクリンのpH依存的活性を決定づけるアミノ酸残基の同定（リンク）』
『Ｉｄｅｎｔｉｆｉｃａｔｉｏｎ ａｎｄ Ｍｏｄｕｌａｔｉｏｎ ｏｆ ｔｈｅ Ｋｅｙ Ａｍｉｎｏ Ａｃｉｄ Ｒｅｓｉｄｕｅ Ｒｅｓｐｏｎｓｉｂｌｅ ｆｏｒ ｔｈｅ ｐＨ Ｓｅｎｓｉｔｉｖｉｔｙ ｏｆ Ｎｅｏｃｕｌｉｎ， ａ Ｔａｓｔｅ-Ｍｏｄｉｆｙｉｎｇ Ｐｒｏｔｅｉｎ（リンク）』（PLoS ＯＮＥ 6(4): e19448 (2011)）
これによれば、ネオクリンが甘みを変化させるのは、ｐＨによってその立体構造が変化するからだそうです。
つまり、中性と酸性では、ネオクリンの立体構造が違っているというのです。そして、酸性の時の構造の方が、より強く甘み甘味受容体を活性化する形をしているというわけ。
人の甘味受容体と結合したネオクリン（赤：ＮＡＳ，青：ＮＢＳ，黄：ｈＴ１Ｒ３，橙：ｈＴ１Ｒ２，ＮＢＳ Ｈｉｓ１１は、緑で表記されています。）
そして、この変化には、ＮＢＳサブユニットの１１番目のヒスチジンが寄与しているんだとか。
というのも、このヒスチジンをアラニンに置換したネオクリンの変異体では、、弱酸性～弱アルカリ性の領域でほぼ一定の甘味を示すのだそうです。
ネオクリンには、５つのヒスチジン残基（ＮＡＳ２つ、ＮＢＳに３つ）が存在しますが、そのうちＮＢＳサブユニットの１１番目のヒスチジン残基をアラニンに置換した場合にだけ、このような現象が見られたとあります。
更に、このＮＢＳサブユニットの１１番目のヒスチジン残基を様々なアミノ酸に置換した変異体で、味覚修飾活性を調べてもいます。その結果はと言えば、残基側鎖に芳香族を有することが味覚修飾活性に必須であることが判明したそうです。
加えて、芳香族を有するフェニルアラニンあるいはチロシンに置換した変異体では、味覚修飾活性は認められたものの、中性条件における甘味がほとんど消失しており、ネオクリンと異なる味覚修飾活性だったそう。
つまり、この部分が、ネオクリンの味覚修飾活性の肝というわけです。
たった一箇所のアミノ酸残基を置換するだけで、味覚修飾の発現の仕方をコントロールできるなんて、面白ですね。
そして、クルクリゴがどんな過程で、このような物質を得るに至ったのか、も興味深いところです。
次回は、植物が、味覚修飾物質を獲得するに至った進化の過程について、ミラクルフルーツを例に考えてみようと思います。
Ｃｕｒｃｕｌｉｎ（クルクリン）は、マレーシアなどのゴムの木の下に自生するキンバイザサ科の植物Ｃｕｒｃｕｌｉｇｏ ｌａｔｉｆｏｌｉａ（クルクリゴ）の実に含まれる味覚修飾物質です。
甘味を呈する物質なのですが、酸味を呈する物質を食べると、より甘味を感じるよる不思議な性質を持っているそうです。
その構造は、１１４アミノ酸残基からなる２つのタンパク質、クルクリン１とクルクリン２が、ジスルフィド結合でつながっているヘテロ二量体。
クルクリン１同士、やクルクリン２同士でホモ二量体を形成した場合には、味覚修飾活性を持っていません。そのため、クルクリン１とクルクリン２のヘテロ二量体を特にＮｅｏｃｕｌｉｎ（ネオクリン）と称します。また、クルクリン１，２は、酸性サブユニット（ＮＡＳ），塩基性サブユニット（ＮＢＳ）と表現される場合もあります。
※下の文献より抜粋したＮｅｏｃｕｌｉｎの二次構造
分かりやすくするため、ここではネオクリンとして説明しますね。
ネオクリンの形そのものは単子葉類のマンノース結合型レクチンによく似ており、ネオクリンがレクチンから進化した分子であると考えられています。また、酸味を呈する物質を食べると、より甘味を感じるという、ネオクリンの不思議な性質については、次のような推論がなされています。
東大大学院農学生命科学研究科のプレスリリース『味覚修飾タンパク質ネオクリンのpH依存的活性を決定づけるアミノ酸残基の同定（リンク）』
『Ｉｄｅｎｔｉｆｉｃａｔｉｏｎ ａｎｄ Ｍｏｄｕｌａｔｉｏｎ ｏｆ ｔｈｅ Ｋｅｙ Ａｍｉｎｏ Ａｃｉｄ Ｒｅｓｉｄｕｅ Ｒｅｓｐｏｎｓｉｂｌｅ ｆｏｒ ｔｈｅ ｐＨ Ｓｅｎｓｉｔｉｖｉｔｙ ｏｆ Ｎｅｏｃｕｌｉｎ， ａ Ｔａｓｔｅ-Ｍｏｄｉｆｙｉｎｇ Ｐｒｏｔｅｉｎ（リンク）』（PLoS ＯＮＥ 6(4): e19448 (2011)）
これによれば、ネオクリンが甘みを変化させるのは、ｐＨによってその立体構造が変化するからだそうです。
つまり、中性と酸性では、ネオクリンの立体構造が違っているというのです。そして、酸性の時の構造の方が、より強く甘み甘味受容体を活性化する形をしているというわけ。
人の甘味受容体と結合したネオクリン（赤：ＮＡＳ，青：ＮＢＳ，黄：ｈＴ１Ｒ３，橙：ｈＴ１Ｒ２，ＮＢＳ Ｈｉｓ１１は、緑で表記されています。）
そして、この変化には、ＮＢＳサブユニットの１１番目のヒスチジンが寄与しているんだとか。
というのも、このヒスチジンをアラニンに置換したネオクリンの変異体では、、弱酸性～弱アルカリ性の領域でほぼ一定の甘味を示すのだそうです。
ネオクリンには、５つのヒスチジン残基（ＮＡＳ２つ、ＮＢＳに３つ）が存在しますが、そのうちＮＢＳサブユニットの１１番目のヒスチジン残基をアラニンに置換した場合にだけ、このような現象が見られたとあります。
更に、このＮＢＳサブユニットの１１番目のヒスチジン残基を様々なアミノ酸に置換した変異体で、味覚修飾活性を調べてもいます。その結果はと言えば、残基側鎖に芳香族を有することが味覚修飾活性に必須であることが判明したそうです。
加えて、芳香族を有するフェニルアラニンあるいはチロシンに置換した変異体では、味覚修飾活性は認められたものの、中性条件における甘味がほとんど消失しており、ネオクリンと異なる味覚修飾活性だったそう。
つまり、この部分が、ネオクリンの味覚修飾活性の肝というわけです。
たった一箇所のアミノ酸残基を置換するだけで、味覚修飾の発現の仕方をコントロールできるなんて、面白ですね。
そして、クルクリゴがどんな過程で、このような物質を得るに至ったのか、も興味深いところです。
次回は、植物が、味覚修飾物質を獲得するに至った進化の過程について、ミラクルフルーツを例に考えてみようと思います。
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＞酸味を呈する物質を食べると、より甘味を感じるという、ネオクリンの不思議な性質
喩えになるかわかりませんが、歯を磨いた直後にオレンジジュースを飲むと酸っぱく感じたりします。
またこれは、味覚に限らず視覚などでもそうですね。
たとえば、今まで赤い物ばかり見ていると、白い物がピンクに見えたりとか（残像）、同じ気温２０度の国際空港でも、熱帯地方から来た人と寒帯から来た人とでは感じ方が異なります。
そういうことを行う物質が存在するのですね。
by 北海道大好き人間 (2011-05-31 14:28)
北海道大好き人間 さん、こんばんは。
歯を磨いた直後の味の変化はありますよね。
牛乳を飲むと辛いのを耐えやすいとかもｗ
by optimist (2011-05-31 22:36)