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動物性香料の主成分 [科学系よもやま話<香りの話>]

動物性香料というと、昨日ご紹介した龍涎香(りゅうぜんこう)/アンバーグリス(Ambergris)以外に、麝香(じゃこう)/ムスク(Musk),霊猫香(れいびょうこう)/シベット(Civet),海狸香(かいりこう)/ カストリウム (Castoreum) が挙げられます。

麝香(ムスク)は、ネパール、チベット、中国北部の高原地帯に生息しているジャコウ鹿(Moschus moschiferus)の牡の下腹部の生殖器近くにある生殖腺(香嚢)の分泌物を乾燥して得られるそうです。この分泌物は、縄張りのマーキングと発情期に牝を惹きつける為のもの。
これに対して、霊猫香(シベット)は、エチオピアのアピシニア高原に生息するジャコウ猫の雌雄が共に持つ一対の分泌腺(香嚢)の分泌物です。ペースト状の糞尿様臭気をもった香料なのですが、希釈すると糞尿のような強烈な臭いが、ジャスミンのような芳香を放つのですから不思議です。
そして、海狸香(カストリウム)は、カナダやシベリアに生息するビーバーの雌雄が共に持つ分泌腺(香嚢)の分泌物を乾燥して得られるそうす。

同じ動物性香料と言っても、昨日ご紹介したように、龍涎香(アンバーグリス)はマッコウクジラの腸内で出来る結石で、龍涎香そのものは香る訳ではなく、海上を漂いながら酸化・分解される事で、芳香する化合物が生成されるます。でも、他の3種類(麝香,霊猫香,海狸香)は、全て動物の香嚢から抽出されるもので、そもそもマーキングや異性を惹きつける為に香りを発する物質という点が異なります。

天然の香料は、何か一つ特定の物質だけの香りではありませんが、麝香(ムスク)の主成分は、ムスコン(3-methylcyclopentadecanone)。霊猫香(シベット)の主成分は、シベトン( (z)-9-cycloheptadecen-1-on)だという事が知られています。
Muscone.jpgCivetone.jpg
ご覧の通り、ムスコンは15員環、シベトンは17員環と、どちらも大きな炭素の環を持つ化合物です。

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ダダチャ豆の味と香りの成分をメタボローム解析で詳細に分析 [科学系よもやま話<香りの話>]

今日ご紹介するのは、ダダチャ豆の味と香りに関わる成分をメタボローム 解析によって詳しく分析されたというお話です。
慶應義塾大学先端生命科学研究所『ダダチャ豆の味と香りの成分をメタボローム解析で詳細に分析(リンク)』

この研究は、独立行政法人 化学研究所植物科学研究センターの斉藤和季グループディレクターらと慶應義塾大学先端生命科学研究所の及川彰講師 らのグループによる共同研究だそうです。

ダダチャ豆と言えば、甘みと香の強い枝豆として知られています。山形県鶴岡市の特産品ですが、栽培する土地が合わないと風味が落ちるんだそうです。JA鶴岡としてはブランドイメージを維持するため、他地方で生産しただだちゃ豆はだだちゃ豆として販売しない様に要請しているそうですが、一般名詞化しているので難しそうですね。
エダマメ3.JPG
※写真は、我が家のベランダでプランター栽培された枝豆。勿論ダダチャ豆ではありません^^;
さて、ダダチャ豆と一口に言っても、小真木・甘露・早生白山・白山・尾浦などの品種があるそうです。いや~調べてみるまで、全く知りませんでした。

この研究では、ダダチャ豆やその近縁にあたる13系統を含む21品種・系統+商業品種6品種を加えた27品種・系統について、分析を行っています。なんと、266種もの成分の含有量を計測して、ダダチャ豆に特有の成分を調べたそうです。
 

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ダダチャ豆と香米の香り成分 2-アセチル-1-ピロリン [科学系よもやま話<香りの話>]

ダダチャ豆と香り成分が香米と同じというお話を昨日致しました。香り米と言えば、丁度、国立科学博物館で、香米『恋ほのか』を配布しています。

そこで、ダダチャ豆と香米で2-アセチル-1-ピロリンが生成される理由について、もう少し詳しくご紹介しようと思います。

ダダチャ豆については、昨日ご紹介した論文
Plant Biotechnology Journal『Deficiency in the amino aldehyde dehydrogenase encoded by GmAMADH2, the homologue of rice Os2AP, enhances 2-acetyl-1-pyrroline biosynthesis in soybeans(リンク)』

香米については、以下の論文を参考にしました。
PNAS Early Edition『The origin and evolution of fragrance in rice (Oryza sativa L.)(リンク)』

まず、どちらも香りの主成分は、同じ2-アセチル-1-ピロリンです。そしてどちれも遺伝子欠損が原因でこの成分が作られています。
2-アセチル-1-ピロリンはγ‐アミノブチルアルデヒド(4‐アミノブタナール)から生成されますが、大豆でも米でも、本来は酵素の働きによってγ‐アミノ酪酸(GABA)に分解される代謝機構が働いているので、2-アセチル-1-ピロリンは、殆ど存在しません。この代謝系は、植物の細胞分裂やタンパク質合成に関係するプトレシンなどのポリアミンを分解するもので、以下のような物です。
ポリアミン代謝系.jpg

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匂いの好みはフェロモンにより制御される [科学系よもやま話<香りの話>]

前回まで、香り米とダダチャ豆の香り成分について、お話しましたが、今日ご紹介するのも、匂いに関係したお話です。

人間の匂いの好みについて、様々な報告を目にします。曰く、『免疫系をつかさどる主要組織適合複合体(MHC)遺伝子のタイプが、異なる人ほど、その体臭を好ましいと思う』、『母は子どもの臭いを、子どもは父の臭いを嫌う傾向がある』等々・・・。

今日ご紹介する東京大学のプレスリリースも匂いに関する物ですが、人間ではなく線虫の匂いの好みについてです。この論文は、Scienceの9月24日号(Vol 329, Issue 5999)で報告されました。
匂いの好みはフェロモンにより制御される(リンク)』

その内容は、線虫の一種である、C.エレガンスの匂いの好みが周囲の仲間の数で変化するというもの。仲間の数=フェロモン量で匂いの嗜好性が変わるんだそうです。
このような反応を示す理由は次のように考察されていました。

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タグ:東京大学
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嗅覚検査 [科学系よもやま話<香りの話>]

先日の『神奈川県農業技術センター畜産技術所 家畜に親しむつどい』で嗅覚検査なるものを受けてみました。

以下の5種類の基準臭を用いて嗅覚が正常であるかどうか検査をするという物です。


<基準臭の物質名/匂いの質>
β-フェニルエチルアルコール/花(バラ)の匂い
メチルシクロペンテノロン/焦げ(カラメル)臭
イソ吉草酸/腐敗臭、汗臭いにおい
γ-ウンデカラクトン/果実(モモ)の匂い
スカトール/糞臭、口臭

実際に嗅覚検査を受けた印象では、私の感じた匂いの質は、こんな感じ。

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タグ:香り 匂い
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β‐フェニルエチルアルコール(フェネチルアルコール) [科学系よもやま話<香りの話>]

嗅覚検査に使われる5種類の香り成分。
今日から、順番にご紹介していきますが、その構造は、ネットでもあちこちで見ることが出来ます。その中で、分子構造を調べるのに私もよく使っているサイトをご紹介しておきます。
生活環境化学の部屋(リンク)』のサイト内にある『香りの分子辞典(リンク)』
身の回りの様々な物質の構造が見られるので、便利です。

さて、話を香り成分に戻しましょう。まず最初にご紹介するのは、2‐フェニルエタノール(β‐フェニルエチルアルコール)です。
フェニルエチルアルコール.jpg
2‐フェニルエタノールは、天然には、バラの花に含まれる成分です。他にもヒアシンス、橙花、カーネーション、すずらん、沈丁花などの花の重要な香気成分でもあります。
バラの花の精油に含まれる香り成分としては、実に6~8割を占めるそうです。

非常に快い花の香を持つのが特徴で、バラなどの香料を調整する際に用いられます。

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2‐ヒドロキシ‐3‐メチル‐2‐シクロペンテノン(メチルシクロペンテノロン) [科学系よもやま話<香りの話>]

今日ご紹介するのは、メチルシクロペンテノロン(別名:シクロテン)です。
メチルシクロペンテノロン.jpg
砂糖が焦げたような臭いや、文献によっては卵が腐ったような臭いと評されます。しかし、嗅覚検査では、私は不快な感じは受けませんでした。
甘い焦げ臭さで、プリンのカラメルソースとかカルメ焼き、メープルシロップが思い浮かぶ香りです。まあ、別名メープルラクトンとも呼ばれるので、単独で嗅ぐと悪臭というより甘い美味しそうな匂い(濃度にもよるのかな?)です。

前述のカラメルの他、コーヒーや麦茶など焙煎したものの香り成分なので、私にはメープルシロップかカラメルとしか思えませんが、聞くところによると、カレーのニオイなんて評する人もいるんだそうです。

香料にも使われていて、食品添加物の他に、衣料用洗剤や電子タバコにも使われているそうです。
※『電子タバコTaEcoの成分(リンク)』
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イソ吉草酸(3‐メチルブタン酸) [科学系よもやま話<香りの話>]

イソ吉草酸
ペンタン酸(別名:吉草酸)の異性体である3‐メチルブタン酸(別名:イソ吉草酸)は、足の裏の臭いとか汗臭さ、或いは加齢による口臭と形容される、非常に不快感を伴う刺激臭を持つ物質です。臭覚検査では、腐敗臭や汗臭いにおいとされます。

ところが、このイソイソ吉草酸をエステル化したものは、香料として広く使用されているんです。下式のように、エチルエステルになると、アップル、メロン、ストロベリーなどの果実系香料になるんだから、不思議でしょう?
3-メチルブタン酸.jpg

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γ‐ウンデカラクトン(5‐ヘプチルテトラヒドロフラン‐2‐オン) [科学系よもやま話<香りの話>]

γ‐ウンデカラクトンは、図のような構造を持ち、常温常圧で、無色から淡黄色の液体で、桃のような香りを持つ物質です。主に、フレーバーや香水などに使われています。
γ-ウンデカラクトン.jpg
香料としての歴史は古く、香料の業界では通称C14アルデヒドと呼ばれます(別名は、ピーチアルデヒド)。その名前の通り、桃の香気成分の1つ(桃の香り成分は、現在確認されているだけでもエステル類、ラクトン類、アルデヒド類を中心に86成分もあります)。

桃の果実は、未熟の時は、エステル類が多いのですが、成熟するにつれて、ラクトン類が増加することが知られています。つまりγ‐ウンデカラクトンは、熟れた桃の甘~い匂いの成分というわけです。

因みにこの成分を使った香水として有名なのは、ゲランのMitsouko。名前だけは、私でも知っています。が、実際にはどんな香りなのか知りません^^;

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スカトール( 3‐メチルインドール) [科学系よもやま話<香りの話>]

臭覚検査の基準臭も今日で最後です。長々とお付き合い頂きありがとうございました。

3‐メチルインドール(スカトール)は、天然では、哺乳類の消化管内でトリプトファンから合成され、単離すると、強い糞臭を持つ物質です。
動物の生理的に糞臭に敏感なのでしょうか?この 3‐メチルインドールは、実に6ppt(100万分の1を表すppmの更に100万分の1がpptです)という濃度でも、人は検知できちゃううんですよ~。

糞臭を言われる臭いも、ppbオーダーではジャスミンにも似た臭いとなる事が知られています。
しかし、ネット上の情報でも見かける、ジャスミンの香気成分がスカトールであるという記述は間違っていると思います。ジャスミンの香気成分で濃度が高いと糞臭がするのはインドール。

3‐メチルインドール(スカトール)はその誘導体であり、あくまでジャスミンの花の特徴的な匂い(の一端)を担っているのは、インドールです。

因みに、ジャスミンの特徴的な香気成分とされるのは、インドールの他、ジャスモンなどで、主成分はリナロールやαファルネセン。
なんとなく、同じく糞便匂がするインドールとゴッチャにされて記述されれいる印象を受けます。

因みにインドールとスカトールの構造は、こんな感じ。
スカトール.jpg

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