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味を受容する細胞が生まれる仕組みを解き明かす [科学系よもやま話<味覚の話>]

今日は、東大大学院農学生命科学研究科のプレスリリースから『味を受容する細胞が生まれる仕組みを解き明かす―甘・旨・苦味を感知できないマウスの作出から(リンク)』をご紹介します。

尚、この研究論文は、米科学誌『Nature Neuroscience(ネイチャー・ニューロサイエンス)(リンク)』電子版で、発表されています。
Skn-1a (Pou2f3) specifies taste receptor cell lineage(リンク)』
※Full text は、有料です。

この論文では、東大大学院農学生命科学研究科の松本一朗特任准教授(現米モネル化学感覚研究所研究員)や応本真特任助教らが、味細胞と周辺の細胞の違いをもたらす遺伝子を網羅的に解析した結果得られた知見が、発表されています。

甘味・旨味・苦味・酸味・塩味を呈する化合物は、舌にあるそれぞれ別々の味細胞によって受容されます。甘味、苦味、うま味の細胞に限って生じるPOUホメオドメインタンパク質『Skn-1a』を作る遺伝子(Skn-1a/Pou2f3)が働かないよう操作したマウス(Skn-1aノックアウトマウス)を調べたところ、甘・旨・苦味細胞が完全に消失し、これら3種類の味を感知できなくなったそうです。
また、これらの味細胞の活性化に必要な遺伝子群(味覚受容体、Gタンパク質、エフェクター、イオンチャンネルなど)の発現が消失していた一方、消失した味細胞に代わり酸味細胞数が増えたのだとか。

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ミラクリン [科学系よもやま話<味覚の話>]

その物自体は無味なのに、酸味を持つものを食べると甘味を感じる。皆さんもTV等でご覧になった事があるのではないでしょうか。

この不思議な味覚修飾物質は、横浜国立大学の栗原良枝教授らによって、初めてミラクルフルーツから単離され、Miracle Fruitの名に因み、Miraculin(ミラクリン)として1968年に米科学誌Scienceで発表されました。
Taste-Modifying Protein from Miracle Fruit(リンク)』(Science 20 September 1968 : Vol. 161 no. 3847 pp. 1241-1243 )
日本人にも関わりのある物質なんですね。

ミラクリンは191アミノ酸残基からなるタンパク質に糖鎖が結合した糖タンパク質で、分子量は24,600だそうです。
Miraculin.png
Miraculin(From Wikipedia, the free encyclopedia)

現在では、遺伝子工学を用いて、ミラクリン遺伝子をレタスに組み込んで大量発現させたり、ミラクリン遺伝子を組み込んだトマトなども作られています。
 

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Curculin(クルクリン),Neoculin(ネオクリン) [科学系よもやま話<味覚の話>]

今日は、前回ご紹介したミラクリンと同じ味覚修飾物質、Curculin(クルクリン)について、もう少し詳しくご紹介します。

Curculin(クルクリン)は、マレーシアなどのゴムの木の下に自生するキンバイザサ科の植物Curculigo latifolia(クルクリゴ)の実に含まれる味覚修飾物質です。
甘味を呈する物質なのですが、酸味を呈する物質を食べると、より甘味を感じるよる不思議な性質を持っているそうです。

その構造は、114アミノ酸残基からなる2つのタンパク質、クルクリン1とクルクリン2が、ジスルフィド結合でつながっているヘテロ二量体。
クルクリン1同士、やクルクリン2同士でホモ二量体を形成した場合には、味覚修飾活性を持っていません。そのため、クルクリン1とクルクリン2のヘテロ二量体を特にNeoculin(ネオクリン)と称します。また、クルクリン1,2は、酸性サブユニット(NAS),塩基性サブユニット(NBS)と表現される場合もあります。
Neoculin.jpg
※下の文献より抜粋したNeoculinの二次構造

分かりやすくするため、ここではネオクリンとして説明しますね。

ネオクリンの形そのものは単子葉類のマンノース結合型レクチンによく似ており、ネオクリンがレクチンから進化した分子であると考えられています。また、酸味を呈する物質を食べると、より甘味を感じるという、ネオクリンの不思議な性質については、次のような推論がなされています。
東大大学院農学生命科学研究科のプレスリリース『味覚修飾タンパク質ネオクリンのpH依存的活性を決定づけるアミノ酸残基の同定(リンク)』
Identification and Modulation of the Key Amino Acid Residue Responsible for the pH Sensitivity of Neoculin, a Taste-Modifying Protein(リンク)』(PLoS ONE 6(4): e19448 (2011))

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ミラクルフルーツ [科学系よもやま話<味覚の話>]

ミラクリンをご紹介した際に、甘味受容体を活性化する受容物質は、高等動物ほど多いと考えられるという話しました。

つまり、甘味を感じる物質は種族間で異なる訳です。同様に、ミラクリンの効果も全ての生物に対して有効という訳ではないそうです。ミラクリンで酸味を甘みとして感じるのは、霊長類。その中でもリスザルなど新世界ザル以上のいわゆる真猿亜目に属する動物だけなんだとか。原始的なロリスなどの原猿類(原猿亜目)には効き目が無いのだそうです。
※霊長類の分類や進化については、以前ご紹介した『京都大学霊長類研究所WEB博物館』で詳しい説明をご覧になれま。是非一度ご覧下さい。

ここで、ミラクリンという物質ではなく、これを含む果実であるミラクルフルーツについて考えてみましょう。
そもそも、何故ミラクルフルーツはこんな不思議な特性を獲得するに至ったのでしょう・・・。

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食品添加物/アスパルテーム [科学系よもやま話<味覚の話>]

アステルパームは、人工甘味料の中でもダントツ一番に普及しています。
添加されている代表的な食品には、コカコーラゼロやペプシネックス、CCレモンゼロなどのカロリーオフ飲料があります(※余談ですが、栄養表示上「カロリーオフ」は、100mlあたり20kcal以下、「カロリーゼロ」や「ノンカロリー」は、100mlあたり 5kcal未満を意味します。本当に0kcalな訳じゃありません)。

一般の加工食品を対象とする栄養表示基準で使う、修正アトウォーター法によるエネルギー換算係数によれば、実はアステルパームは4kcal/g で、砂糖と同じなんです。じゃあなんでカロリーオフなのかと言えば、同じ量で感じる甘みが砂糖の200倍もあるからです。つまり、砂糖を使った時に比べ、1/200の添加量で、同じ甘さを感じるので、実際にはエネルギーとして1/200になるというわけです。
更に、エネルギー換算係数は、あくまで計算値。実際に食べた場合、米国食品医薬品局(FDA)の審査結果によれば、大部分は吸収されずに、体外に排出されるので、生理的熱量は非常に小さいと言えそうです。

特徴として酸には比較的強いので、炭酸・果汁系飲料に使用されますが、スクラロースに比べて熱に弱いので缶コーヒーなどには使われません。また、甘さの質が砂糖とは異なるので、他の甘味料と併用される事が多いようです。

さて、そんなアスパルテームを甘いと感じるのは、霊長類の中でも旧世界ザル以上(狭鼻下目)の動物のみが応答する事が知られています。つまり、アスパルテームを甘いと感じるのは、人を含め僅かな生き物だけなんだそうです。なんだか不思議ですね。
哺乳類の甘味感受性の系統発生とヒト甘味受容体T1r2/T1r3のリガンド結合サイト(JPGファイル)』

さて、人工甘味料や添加料と言うと、安全性に疑問を持つ方が多いのではないでしょうか?実際にネットでアステルパームにつて調べると、安全性についての議論や主張を山の様に見ることができます。
 

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タグ:人口甘味料
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ミラクリンの不思議を分子レベルで解明 [科学系よもやま話<味覚の話>]

このブログでも以前ご紹介した(『ミラクリン』)ミラクルフルーツの果実に含まれるミラクリンというタンパク質について、東京大学 農学生命科学研究科からの発表がありました。
『酸っぱいものを甘くするミラクリンの不思議を分子レベルで解き明かす<>(リンク)』

この報告は、ミラクリンが、酸っぱいものを甘く感じてさせる不思議な現象は、ヒト甘味受容体に結合したミラクリンが、酸性になるとこの受容体を活性化することによるものだと解明したというものです。

尚、この研究については、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)に掲載されています。
Human sweet taste receptor mediates acid-induced sweetness of miraculin(pdfファイル)』

このような味覚に関する不思議は、サイドバーのマイカテゴリーから、『科学系よもやま話<味覚の話>』をご覧頂ければ、幾つかご紹介しています。
良かったら、ご覧下さい。

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