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白い血液を持つ魚『コオリウオ』 [不思議な生き物・奇天烈生物紹介]

今日、ご紹介するのは、白い血液を持つ魚『コオリウオ』です。
コオリウオ.JPG
白い血を持つなんて実に珍しい魚なのですが、まず血の色の話をするために、血液の成分について確認してみましょう。

そもそも血液は有形成分と無形成分に分けられます。有形成分とは赤血球や白血球、血小板といった血球成分です。対して無形成分は血漿と呼ばれる液状成分。血液とは血漿に血球成分やタンパク質などが分散されている物です。あくまで溶けているのではなく、混ざっているにすぎません。つまり細かいフィルターに血液を通せば液体の血漿だけが漉されます。その時の色は、透明~淡黄色。白血球や血色板には、濃い色が着いていないので、専ら血の色は赤血球に拠る物になります。

更に言うなら、赤血球に含まれる酸素運搬物質である、ヘモグロビンの色です。ところで、海老や蟹などの節足動物、或いはイカやカタツムリなどの軟体動物の多くはヘモグロビンではなくヘモシアニンで酸素を運搬しています。このヘモシアニンの色は青いので、血の色が緑~青なんです。厳密には発色のメカニズムは異なるのですが、鉄を含むヘモグロビンは鉄錆の赤、銅を含むヘモシアニンは緑青(ろくしょう)の青(緑)と覚えると良いかもしれません。

で、本題のコオリウオ科の魚です。なんと、こいつ等には赤血球がありません。或いはあったとしてもヘモグロビンもヘモシアニンも持っていません。ということで、血液に色をつけている最大要因が無いので、血漿の色をした無色~淡黄色をした血を持ってるという訳。かなり斬新な戦略です・・・。
 
このような進化は、低温への適応の結果だと考えられています。コオリウオ科の魚は、その名の通り低水温に適応した種です。

低温でも凍結しないように、血液には耐凍結糖ペプチド(AFGP)が多量に含まれます。不凍液のように、凝固点を下げることで、凍結しない血液を手に入れたという訳です。更に、低温では血液の粘性が高くなります。そこで、サラサラな血液を手に入れるために赤血球を失ったのではないかという説があるそうです。

普通なら赤血球がなければ酸素運搬効率が著しく低下するので、死んでしまうでしょう。しかし、低温になると液体に溶ける酸素量が増えます。つまり豊富な酸素があれば、低の液体には常温下より多くの酸素が溶け込みます。この特殊な環境が赤血球を失うという戦略をも成り立たせているんです。

ヘモグロビンには及ぶべくもありませんが、血漿は液体ですから酸素を溶かして運ぶ事ができます。後はサラサラな血を最大限利用して通常より多い血液を体中に送り込むことで、必要な酸素を体中に運ぶってわけ。そのための循環器が特殊な形に進化しているそうですよ。なんとも不思議な魚でしょう?

そんな不思議なコオリウオは、立川の北極・南極科学館や、品川の東京海洋大学 水産資料館で、標本を見ることが出来ます。

※コオリウオの進化については、以下の資料を参考にさせて頂きました。
・総合研究大学院大学の総研大ジャーナル10号(2006(平成18)年秋刊行)中の『Part 2 新たな学問領域(pdfファイル)』内『ノトセニア亜目魚類をとりまく環境と進化(大田准教授)』。
・『南極海の魚はなぜ凍らない』(ライトサイエンス・ブックス,日経サイエンス社)

※2011.9.19加筆)
2011年8月24日から、葛西臨海水族園で、コオリウオ科の1種であるオセレイテッド アイスフィッシュ(ジャノメコオリウオ)が展示されているそうです。
葛西臨海水族園情報『世界初公開、無色透明な血液を持つ南極の魚!(リンク)』

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コメント 6

yablinsky

いやー不思議な魚ですね。
optimistさんの解説からすればコオリウオは温かい水の中では生きることができないということでしょうか。
by yablinsky (2010-07-30 07:52) 

北海道大好き人間

>細かいフィルターに血液を通せば液体の血漿だけが漉されます。その時の色は、透明~淡黄色。
成分献血で血漿あるいは血小板献血をする時に見られますね。
私は、おそらくその年まで生きられない回数の献血をしているので(以前は成分献血は1回で200ml献血3回分に換算していました)、しょっちゅう見ています。
by 北海道大好き人間 (2010-07-30 18:39) 

optimist

yablinsky さん、こんばんは。
溶存酸素量が十分ないと生きられないようですから、多分その通りだと思います。

by optimist (2010-07-30 23:07) 

optimist

北海道大好き人間 さん、こんばんは。
そうですね、まさに成分献血時の色がコオリウオの血液の色です。
それにしても献血を大変な回数やられているのですね。頭が下がります。
by optimist (2010-07-30 23:09) 

アヨアン・イゴカー

コオリウオ:
面白い記事ですね。体温がどのくらいあるのか知りたいところです。人間が触った段階で火傷してしまうのかもしれませんね。

by アヨアン・イゴカー (2010-07-31 12:17) 

optimist

アヨアン・イゴカー さん、こんばんは。
体温・・・確かにそうですね。氷点下でも凍らないように血液を変化させていることや、魚類が変温動物ということからも海水温に近いと思います。
仰るように、急激に30℃も温度が違う環境に晒されると、どうなっちゃうんでしょうね?
by optimist (2010-08-02 22:37) 

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