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太陽エネルギーを人工発生させる「ITER」、稼動を19年に延期 [科学系よもやま話]

2013年とか聞いていたように記憶していましたが、ITERの稼働が2019年に延期されたとそうです。

ITER計画は、50万キロワットの核融合出力を長時間に渡って実現し、核融合エネルギーが科学・技術的に実現可能であることを実証することを目的としています。
詳しくは、『国際熱核融合実験炉 Web Site(リンク)』に詳しい説明がありますので、興味のある方はご覧下さい。

簡単に核融合炉について説明すると、現在の原子力発電を担っている核分裂炉が、ウランやプルトニウムの原子核分裂反応を利用しているのに対して、軽い原子である水素やヘリウムによる核融合をエネルギーに変換するのが核融合炉です。
核融合.jpg
核分裂を使った原子爆弾、核融合を使った水素爆弾などの例から、興味のない人からしたら核融合も核分裂も危ないという印象があるかもしれません。しかし、核分裂と核融合は全く別の現象です。

本来、核分裂は通常環境下で勝手に起こります。更にウラン235のような核分裂性物質を一定量以上集めると、核分裂により発生した中性子が新たな核分裂を起こすため、連鎖的に反応が起こります。そこで人為的に中性子を吸収してやり反応を制御しようというのが核分裂炉(原子炉)です。制御に失敗すると、原爆の様に爆発的に反応が進みます。

これに対して、核融合は通常環境では起こりません。極めて高温か高圧の環境下で起こる現象だからです。ですから制御に失敗すると、爆発ではなく、停止してしまいます。恒星で自然に核融合が起こっているのは、その質量が十分に大きく、中心部で十分な高圧が得られるからなのです。つまり、核融合とは、通常の環境で起こらない核融合を起こすために、人為的に高温や高圧を維持する事で、反応を制御する技術が求められるのです。

因みに水爆は、制御など考えていませんから、原子爆弾を起爆装置として、核分裂反応で発生した超高温・高圧状態を使って、重水素や三重水素の核融合反応を起こしています。しかし、このようにして得られた超高温・高圧状態は制御できるものではありません。つまり、核分裂炉(原子炉)は制御された原爆と言う事が出来ても、核融合炉は制御された水爆では無く、全く別の方法で超高温・高圧状態を得る装置なんです。勝手に反応が進む事が無いので安全性が高い核融合は、次世代のエネルギーとして期待されています。なんと言っても、燃料がウランやプルトニウムという危険な物質ではなく、水素や重水素など無尽蔵に存在する物質だというのも、大きな利点です。

しかし、問題が無いわけではありません。安全面での問題として指摘されるのは、発生する(D-3He反応では燃料ともなりますが)三重水素です。これは、ウランを使った原子力発電で発生するプルトニウム同様、放射性物質です。環境への漏洩阻止対策は十分に行う必要があります。

そして、最大の問題は、核融合反応で発生する中性子です(核融合の種類によっては発生しない場合もあります)。この中性子は何重にも防御する必要があります。但し、いかに環境への漏洩を防いだとしても、核融合炉壁及び建造が放射化するという問題が残っています。燃料が放射性物質でなくとも、核融合炉周辺の機械装置や建物が放射化しては安全とは言えません。この問題解決のため、低放射化材料の開発が進められているようです。

まだまだ問題はあるものの、現行の原子力発電より、安全面での期待が持てるのは、間違いないでしょう。その分、設備の大型化に伴い高額になる問題はありそうですが・・・。

上でも少し触れましたが、更に安全な核融合として、重水素+ヘリウム3などを使うと、中性子の発生が少なくてすみます。ただ、核融合反応を持続させるためのプラズマの温度を重水素+三重水素燃料の時に比べて高くする必要がある事や、ヘリウム3が地球上で殆ど得られない事が難点なようです。但し、月にはヘリウム3が存在する事が分かっているので、SFでは月世界のヘリウム3を使った核融合エネルギー利用された世界が描かれたりしています。このような核融合は、次世代核融合とも呼ばれているんですよ。

素人ながら、私の理解するところを書いてみました。専門家では無いので、解釈に間違い等あろうかと思いますが、お気づきの点がございましたら、コメント欄をお使いいただき、ご指摘頂ければ幸いです。

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コメント 4

yablinsky

長い目でみれば、石油は必ずなくなりますし、風力、太陽エネルギーなどは弱いですし、人類が生き延びようと思えば、核融合は不可欠ですね。それにしてはそれほど熱心に取り組んでいないような印象です。私の感覚ではもっとお金と人を投入すべきでしょう。

各国がこれまでやっても完成しなかった技術ですから難しいのはわかります。延期もそんなものでしょう。これからも延期が続くと思いますが、それでもお金を投じ続けることが重要です。
by yablinsky (2010-08-05 07:20) 

optimist

yablinsky さん、こんばんは。
最大のネックは、核融合に比べたコストが高い事なのでしょうね。
目先をみれば、化石燃料の方が遥かに安上がりですし、太陽光や水力・風力発電も規模が小さくても出来る。
それに対して、成功した時のリターンは大きいと思いますが、そこまで追い詰められてないから、本気で取り組む気が、各国政府に見られないように思います。
by optimist (2010-08-06 22:25) 

北海道大好き人間

元を正せばキュリー夫妻の発見から始まったわけですが、夫妻が今の現状(原爆投下から今日の核開発まで)を見たらどう思うでしょうか?
by 北海道大好き人間 (2010-08-07 23:51) 

optimist

北海道大好き人間 さん、こんばんは。
放射化学者達が現在の核兵器を見たとした、何を考えるのか・・・
科学者の命題の一つかもしれませんね。科学の進歩と、兵器への応用・・・。
by optimist (2010-08-11 00:47) 

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