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恐竜の前足の指と鳥類の翼の指は同じもの [科学系よもやま話<生命の起源・進化>]

この何日か、手足の指の数に関するお話をしてきました。

今日も、そんな指の数に着目した研究から、恐竜の進化についてのお話をご紹介します。
まずは、こちらの東北大学大学院生命科学研究科のプレスリリース(2011年2月)をご覧下さい。
恐竜の前足の指と鳥類の翼の指は同じもの-150年続く指論争に終止符を打つ発生研究- (pdfファイル)』

これによれば、恐竜の前足と鳥の翼の指の骨を発生学的に解析したところ、鳥類恐竜起源説の強力な証拠を得たというのです。

鳥類が恐竜の獣脚類から進化したという考えは、さまざまな証拠から、現在広く支持されています。
しかし、問題点も指摘されています。その一つが、恐竜の前足の3本の指は第1-2-3指であるのに対し、そこから進化したとされる鳥類の前肢(翼)が第2-3-4指なのはおかしいではないかという指摘だそうです。

このパラドックスに対し、東北大学大学院生命科学研究科の田村宏治教授と大学院生・野村直生さんらが、鳥類の前肢(翼)が第2-3-4指ではなく、発生学的に調べた結果、恐竜と同じ第1-2-3指だという事を示したというのです。
図1. 恐竜と鳥類の指形態の類似性.jpg
図1.恐竜と鳥類の指形態の類似性(上記東北大学プレスリリースより転載)
尚、この研究成果は、科学雑誌Scienceにも掲載されています。
Embryological evidence identifies wing digits in birds as digits 1, 2, and 3(リンク)』(Science 331, 753-757)
 
獣脚類恐竜の多くは、前肢の指が3本です。古い化石を調べると、獣脚類の前肢の指も最初は5本だったのが、進化の過程で後ろ側の2本、すなわち第5指と第4指が失われ、最終的に前側3本(第1-2-3)指が残ったと考えられるそうです(図1のヘレラサウルスとディノニクスの指の骨を比較してみてください)。そして始祖鳥の前肢も第1-2-3指の3本指です。

これに対して、現存する鳥類も前肢に3本の指をもちます。じゃあ前肢も第1-2-3指だろうと思うのですが、従来は第2-3-4指だと考えられてきたそうです。
それは何故か?そして、今回鳥の翼も第1-2-3指だと結論づけた根拠は何か?ここが、この研究の肝なので、以下に簡単に説明しておきます。

まず、従来は何故、鳥類の前肢の指は第2-3-4指とされたのでしょう?

ニワトリを例にとると、翼となる前肢に3本の指、体を支える後肢には、親指・人差し指・中指・薬指の4本の指が形成されます(昨日ご紹介したように、烏骨鶏の後肢は5指です)。
ここで、前後の肢で、最も後ろ側の指(3本目)がつくられる位置は、後肢の薬指(4本目)の位置とほぼ同じで、腓骨・尺骨の延長線上です。この位置関係から、前肢の3本目の指も薬指であり、3本の指は第1-2-3指だとされてきたそうです。

更に、ダチョウこ後肢の指の形成過程では、5つの指の原基(もとになる軟骨の塊り)が観察され、そのうちの真ん中の3つだけが指に成長する事が知られているそうです。これらの事実から、鳥類の前肢の指は第2-3-4指とされてきたのだそうです。
 
では、何故今回、そうではなく第1-2-3指だという結論を得たのでしょう?

発生する指が決まる時期に、肢の先端の表皮は厚くなって、外胚葉性頂堤(AER:Apical ectodermal ridge)という構造が形成されます。AERは、指の成長を促すととも極性化活性帯(ZPA:Zone of polarizing activity)と呼ばれる領域をつくる事が知られています。

今回、ニワトリを使って、発生する指が決まる時期(受精後3日~3日半)に、前肢と後肢のZPAを蛍光色素で標識して観察を行った所、不思議な事が起きたそうです。
ニワトリの後肢の4本目の指(薬指)はZPAにある事が知られていたのですが、後肢では確かに4本目の薬指に蛍光色素が現れていたのに、前肢では蛍光色素は指に現れていなかったんです。

これは何を意味しているのか?
前肢の3本目の指は薬指ではなく、ZPAの外側にある中指の位置から発生していたんです。となると、3本の指は第1-2-3指ですから、恐竜の前肢と同じだって話ですね。

更に後肢と前肢では、指の作られ方が異なっていることも分かったそうです。
発生のごく初期には前肢の指のもとになる細胞集団は、人差し指・中指・薬指の位置にあり、このまま成長すれば、従来言われていたとおり、第2-3-4指となるはずでした。しかし、短時間のうちにそれぞれがひとつずつずれて、発生する指が決まる時期までには、親指・人差し指・中指の位置に移動していたと言うのです。
図3. ニワトリ前肢の発生過程(模式図).jpg
図3.ニワトリ前肢の発生過程(模式図)(上記東北大学プレスリリースより転載)

今まで、このずれが見逃されていたので、第2-3-4指とされたと言うのが、この研究成果の重要な点。
ニワトリの後肢の本目の指のつくられ方と、翼になる前肢の3本目の指のつくられ方は、全く異なるなんて、面白いですね。


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北海道大好き人間

鳥の翼は、前足が違う方向へ進化した結果だということを聞いたことがありますが、それが証明されたわけですね。

by 北海道大好き人間 (2011-06-16 02:21) 

optimist

北海道大好き人間 さん、こんばんは。
このような研究は、今後さらに進むでしょうから楽しみですね。
by optimist (2011-06-20 22:18) 

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