巨大ブラックホールの失われたスピン

今日ご紹介するのは、ブラックホールのスピンに関する論文です。
ブラックホールの性質は、質量、スピン、電荷という３つの物理量だけで、完全に決まるとされています。

質量については、その周りにある星やガスの運動から測定されています。しかし、ブラックホールのスピンについては、周囲の時空に影響を与えるものの、その効果が顕著に現れるのはブラックホールのごく近傍に限られるんだそうです。そのため、遠方にあるブラックホールは、見かけの大きさが小さすぎて、スピンの有無でさえも時空構造から区別し難いものなんだとか。そのため、従来は、ブラックホールの近くから放射される光の性質を使ってスピンを求めていたそうです。

でも、この方法だと、不確定性が多い。そこで、この論文では、新しい方法を考案し、ブラックホールのスピンを求めていました。その方法とは、ガスがブラックホールへ落下する時にできる回転ガス円盤（降着円盤）の共振現象に由来する光度変動を測定することで、ブラックホールのスピンを求めると言うもの
（難しいよ～＾＾；）。

提供：宇宙航空研究開発機構（JAXA）／国立天文台／理化学研究所／日本大学／千葉大学
論文では、この新しい手法で、銀河系の中心にある巨大ブラックホール『いて座A＊（エー・スター）（Sgr A＊）』のスピンを測定しています。このブラックホールの質量は、太陽の４００万倍という、とほうもなく巨大なもの。
従来の方法では、（不確定要素が多いものの）巨大ブラックホールのスピンは大きな値を持つと考えられていました。しかし、新しい測定方法によると、多くの研究者の予想に反して、自転速度に換算すると光速の２２％という、小さな値が得られたんだそうです。恒星質量ブラックホールが巨大ブラックホールへ成長するには、回転する降着円盤を通じて莫大な質量のガスと膨大な角運動量を吸い込むために、巨大ブラックホールのスピンは大きくなるはず・・・。しかし、今回得られた値は、もっと質量の小さい恒星質量ブラックホールの値と大差ありません。

この巨大ブラックホールのスピンが大きくならない理由として、筆者らは２つの可能性を指摘しています。一つは、回転軸の向きに対して右回りと左回りの角運動量を絶妙な具合に吸い込んだ場合。もう一つは、ブラックホールの自転のエネルギーが抜き取られた場合です。
筆者らは、後者の可能性が高いと指摘してます（まあ当然ですね。都合よく絶妙に打ち消しあったと考えるより納得できます）。巨大ブラックホールの自転エネルギーが抜き取られて、宇宙ジェットなどの他のエネルギーに転換された可能性があると考えているようです。

なお、この論文は２０１０年３月発行のイギリスの学術雑誌『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society』の第403巻の第1号に掲載されるそうです。
※詳しくはリンク先をご覧下さい。
『巨大ブラックホールの失われたスピン（リンク）』

論文名：「天の川銀河中心の超大質量ブラックホールのスピン測定」
原題：“Measuring spin of a supermassive black hole at the Galactic centre -- implications for a unique spin”）
著者：加藤成晃（JAXA宇宙科学研究本部）、三好真（国立天文台）、高橋労太（理化学研究所）、根來均（日本大学）、松元亮治（千葉大学）

※YOMIURI　ONLINEのニュースにもなっていたのでリンクしておきます（2010年3月9日 23:23加筆）。
『ブラックホールの自転速度、通説の半分だった（YOMIURI　ONLINE）』

タグ：JAXA ブラックホール

コメント 2

やっと、レスが追いつきました。
まさかとは思いますが、これに太陽系が巻き込まれたりしないでしょうね。
でも、それだけ強力な引力を持っていれば、徐々に引き込まれてしまうかも知れません。
by 北海道大好き人間 (2010-03-09 21:56) 

北海道大好き人間 さん、こんばんは。
一気に読んで頂いて、ありがとうございます。大変だったでしょう＾＾；
最初のコメントのレスにも書きましたが、結局全部レスを付けさせて頂きました。（返事を書くのも楽しい物でして・・・）

さて、引力の強さは距離の2乗に反比例しますから、どんなに強い重力を持っていたとしても十分に距離が離れていれば大丈夫だと思いますよ。
まあ、ブラックホールについては、理論も含め分からない事だらけみたいですから、実際はどうか分かりませんが・・・
by optimist (2010-03-09 22:23)