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歩くたんぱく質、撮った 金沢大が顕微鏡開発 [科学系よもやま話<新薬・新技術>]

今日ご紹介するのは、金沢大学がタンパク質が移動する姿を捉えられる顕微鏡を開発したという話です。
金沢大学プレスリリース『理工研究域・安藤教授と古寺助教らのグループ 科学誌Natureに論文掲載(pdfファイル)』
Nature『Video imaging of walking myosin V by high-speed atomic force microscopy(リンク)』

この研究は、金沢大理工研究域数物科学類の安藤教授と古寺助教らの研究グループによるものです。私が在籍時には、学域学類制になる前だったので、安藤教授は理学部の物理学科って聞いた方が馴染みがあります。私の出身学科も理学部化学科から理工研究域物質化学類化学コースなんて長い名前になっちゃって、覚えられません^^;

タンパンク質の構造解析は、X線結晶構造解析や核磁気共鳴(NMR)などで調べられる他、走査型電子顕微鏡(SEM)や、原子間力顕微鏡(AFM)も使われます。この論文で報告されているのはAFMの一種です。SEMは電子を使って観測するので、絶縁物質は表面を薄く金属でコーティングしなければ観察できませんし、試料は真空中に置かれます。それに対してAFMは非常に細い針(プローブ)で試料表面ギリギリをなぞって、針先と試料の原子間に働く力を調べ、画像化する装置です。SEMのような前処理が不要なので、大気中だけでなく液体中でも測定できますし、様々な環境で測定できるのが特徴です。

分子の動きを知るためには、この様々な環境で測定できるAFMは非常にありがたい存在です。しかし、プローブをで分子全体をなぞるので、それなりに時間がかかります。つまり、分子の動きを捉える事はできなかったんです。
また、針が接触して分子を壊したり、分子の働きを阻害してしまうという問題も抱えていました。
この欠点を克服したのが安藤教授と古寺助教らの研究グループです。接触動作や接触の検出の高速化するセンサーや制御技術を開発、とうとう、現在の理論限界にほぼ近い世界最高性能の高速AFMを開発したというわけです。

こうして開発した新しい顕微鏡使って、細胞内で物質輸送を担う行タンパク質、モータタンパク質ミオシンVのATP存在下で歩行運動を捉える事に成功したんですね。

ミオシンVは2本の脚状構造を持っています。アクチンフィラメントに沿って、まるで人間が二本足で歩くように、約36nmの歩幅で、運動することが既に知られていました。今回の報告は、これを実際に捉えたという点が画期的です。得られた画像は、2~3nmの空間分解能、140msの時間分解能で捉えたもので、Supplementary MoviesとしてNatureのホームページで見ることができます(上のNatureへのリンクで、 Figures and tables,Supplementary informationをクリック)が、同じものは『歩行中のミオシンVの高速原子間力顕微鏡によるビデオイメージング 付録映像データ(リンク)』でも見ることができます)。

今回の観測により、従来ミオシンVが前方に移動するときのみ後ろ脚がアクチンから解離するとされたが、実際は移動せずに、特に前脚が短時間アクチンから解離し同じアクチン(もしくは隣のアクチン)に再結合することが発見されたそうです。今後、この新型AFMを使ってどんな発見があるのでしょうね。


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北海道大好き人間

これって、ノーベル賞級の発見になるのでしょうか?
ただ(特に自然科学系の)ノーベル賞は、発見・開発されてから相当年数が経たないと受賞できないので、その教授等が亡くなってしまうことがあるのも問題だと思います。
by 北海道大好き人間 (2010-10-22 10:29) 

optimist

ノーベル賞はちと難しいかと思われます^^;
でも、見知った方の近況をニュースで見ると嬉しくて、取り上げてみました。
ところでノーベル賞は、同じ系統の研究では1回、3名まで生きている方のみの受賞なので、運も見方にする必要がありそうですね。
by optimist (2010-10-25 22:18) 

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