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カミオカンデ [科学系よもやま話]

ノーベル化学賞受賞に沸く日本ですが、ノーベル賞つながりで、カミオカンデについての記事を書いてみました。またまた、教条臭い所はありますが、お付き合い頂ければ幸いです。

カミオカンデは、岐阜県の神岡鉱山跡に作られたニュートリノ観測装置です。1996年に次世代のスーパーカミオカンデが稼動したことで、その役割を終えました。現在は跡地にカムランド(KamLAND)という反ニュートリノ検出器が作られ、稼動しています。
カミオカンデ.JPG
科学未来館の展示物

そもそも、カミオカンデは、大統一理論(GWS理論)から予測される陽子崩壊を実証する目的で、建設され、1983年に完成しました。陽子崩壊に伴い放出すると考えられるニュートリノを検出するため、3000トンもの超純水をタンクに張り、その壁面にずらりと1000本もの光電子増倍管を並べるという装置は、水チェレンコフ検出器と呼ばれ、1979年にKEKで開かれた「統一理論と宇宙のバリオン数」という国際会議で、当時東京大学の小柴昌俊教授らが提案したものです。

ニュートリノは他の物質と反応せず、地球すら突き抜けてしまう粒子です。しかし、稀にニュートリノが電子や原子核に衝突することがあるんです。ニュートリノが電子と衝突すると、陽電子が生じ、光の速度を越えて水中を走り、チェレンコフ光という光を発します。チェレンコフ光は放射状に広がり壁面の光電子増倍管で検出することで、ニュートリノを検出するというのが、この水チェレンコフ検出器の原理です。

因みに、チェレンコフ光は非常に弱い光なので、光電子増倍管の感度が高く、光が減衰しないように超純水を溜める必要があります。また、外部からの影響を受けないように、岩盤に覆われた地下1000mに設置されました。
 
カミオカンデの建設時、陽子崩壊にかかる時間は、10の30乗年(百穣年)と予想されていました。しかし、そんな長い時間は待てません。そこで、10の30乗個の陽子を集めて観察してやれば、1年に1個の頻度で陽子崩壊が起こる・・・という考えに基き、10の30乗個の陽子、つまり3000トンの水を溜めて観察をはじめました。
大量の水は、陽子の供給源である一方で、気まぐれなニュートリノと衝突する電子の供給源でもあります。つまり、大量の水があるこで、チェレンコフ光を検出する確率も高くなるんですね。

しかし、運用直後に陽子崩壊か?という現象が観測されたきり、待てど暮らせど陽子崩壊によると思われるニュートリノは検出できませんでした。つまり大統一理論(GWS理論)には間違いがあるという事が分かったんです(※陽子の寿命は10の30乗年以上と分かりましたが、スーパーカミオカンデ(5万トンの水を溜めてます)により、10の34乗年よりも長い事が分かっています(2010年時点))。
カミオカンデ建設に費やされた費用は莫大です。理論が間違っていたと証明できたことは成果なのですが、もし無用の長物となるなんてことなれば、大問題になる可能性もあったそうです。そこで、小柴博士らは、その使用目的を変更してこれに対応しました。それが、太陽中心部から生じるニュートリノ観測です。陽子崩壊を観測する中で、太陽からのニュートリノの観測に優れた特徴を持っていること分かったからなのですが、この変更が思わぬ幸運を引き寄せました。

太陽ニュートリノ観測のための改修作業を終えてから、わずか2ヵ月後の1987年2月23日、先日ご紹介したように、大マゼラン星雲の中で爆発した超新星SN1987Aから飛来したニュートリノを11例も観測したんです。これにより、超新星爆発の理論が正しいことが証明され、ニュートリノを観測手段とするニュートリノ天文学の幕開けとなり、皆さんご存知のように、2002年の小柴昌俊東大特別栄誉教授が、ノーベル物理学賞を受賞したわけです。

その後も、カミオカンデで観測された大気ニュートリノの異常が、ニュートリノの振動現象だということが確認されたり(スーパーカミオカンデにより1998年に確認)と、活躍を続けたカミオカンデやスーパーカミオカンデですが、もしあそこで超新星爆発が無かったら、予算縮小で中止なんて可能性もあったかもしれません。

それにしても、このような話を聞くと、細菌学者のルイ・パスツールの有名な言葉が思い出されます。
Chance favors the prepared mind.
Fortune favors the prepared mind.
In the field of observation, chance favors the prepared mind.
Where observation is concerned, chance favors only the prepared mind.

<参考サイト>
スーパーカミオカンデ公式HP(リンク)』
オルガノ株式会社『宇宙劇場へ、ようこそ(リンク)』
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コメント 4

北海道大好き人間

あれから8年も経つのですか。

それよりも、宇宙戦艦ヤマト(特に完結編)のファンである私は、この話題を聞くと、反射的に「ニュートリノビーム(防御幕)」を思い出します。
勿論、架空の兵器なので、これとどういう関連があるのか、知る由もありませんが。
by 北海道大好き人間 (2010-10-23 01:05) 

yablinsky

そうですね。超新星爆発がなかったら、ノーベル賞もなかったでしょうね。小柴先生はそういう「星」の元に生まれているということでしょう。
by yablinsky (2010-10-23 20:03) 

optimist

北海道大好き人間 さん、こんばんは。
宇宙戦艦ヤマト懐かしいです。最近リメークされたんですよね(見てないけどw)。
拡散波動砲とか、重核子爆弾 、ハイドロコスモジェン砲等・・・どんな武器かは忘れても名前だけは覚えてる・・・。

by optimist (2010-10-25 22:22) 

optimist

yablinsky さん
座布団一枚♪
by optimist (2010-10-25 22:22) 

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