SSブログ

人為的なクローン [科学系よもやま話<クローンの話>]

前回、クローンとは、遺伝子型が同じ個体群だというお話をしました。

既にご紹介したように、自然界でクローンは、珍しい存在ではありません。
でも、クローン技術と聞くと、抵抗を感じる人が存在するのも確かです。同一遺伝子を持つ存在が複数個体いるという状態は、自然に起こる事なのですから、抵抗を感じるのは、その過程にあると考えられるのでは無いでしょうか?

つまり、人間が介在するクローンだから抵抗があるという考えです。
これが正しいかは分かりませんが、人間の関わり方によって、感じる抵抗もかなり変わると思います。

それでは、幾つか例を挙げますので、それぞれの基準で、考えてみて下さい。
※ちょっと長いですが、ご容赦下さい。 
最初の例は、日本の春を彩る代表的な桜、ソメイヨシノです。
実は、ソメイヨシノはクローンです。バラ科に属する桜は、自家不和合性なので、交配種であるソメイヨシノの原木から受粉受精で種子を作ることは出来ません。
日本各地に見られるソメイヨシノは、、全て人為的に挿し木で増やした原木のクローンをせっせと植えた結果なんですよ。

2つ目の例は、プラナリアの分裂です。
1匹のプラナリアを半分に切ると、2つの個体になります。更にそれぞれ2つに切れば、4個体です。4匹の遺伝子型は同一ですからクローンの誕生です。人為的に切断する事で、クローンを作るという点は最初の挿し木と共通しています。

3番目の例は、受精卵によるクローンです。
これは、言い換えれば一卵性双生児を人為的に作るというものです。対象が、人間だと一気に倫理的な問題を感じるので、ここでは羊を例にとりましょう。
初期胚を一度体外に取り出して、毛細ガラス針や微小メスを使って、二つに分離します。こうして得られたものを『双子胚(1/2胚)』を呼びます。この双子胚をそれぞれ母に戻すと、それぞれが成長していきます。
このように、細胞期胚から分離された二個の割球が、それぞれ全く普通に成長し、一個体に発達する能力を分化全能性呼びます。そして、この分化全能性は、生物が自然に持っている能力であり、人が手を加えたのは、初期胚を取り出したり、戻したりという操作と、杯を二つに割った事だけです(正確には割球を除核卵子にインジェクションするのですが・・・)。

4番目の例は、体細胞クローンです。
クローン羊として有名なドリーを例にとりましょう。大人の羊の乳腺の細胞から遺伝情報のつまった核を取り出します。次に未受精成熟卵子の核を除去して、替わりに先ほどの核と電気融合(直流25Vを50ミリ秒流す)を行い核移植します。分化が始まるので、7~9日間程培養して胚盤胞期胚にまで発生させてから、代理母を使って成長させます。
この技術は、実際に乳量が多い母牛と同じ遺伝子型を持つクローンを作ったり、老齢となった最高級の和牛の種雄牛(糸福)の背中の筋肉細胞から再生されたクローン牛(夢福 -Iと夢福 -II)などで実用化されています。
本来、無性生殖をしない種でも、親と同一の遺伝子型を持つ子どもが世代を継ぐわけです。子供同士がクローン体である3番目の例と異なり、親子の関係でクローン体となるわけです。

5番目の例も体細胞クローンですが、核を生きている親からではなく、既に死亡している親から得るものです。
理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの若山 照彦氏は、世界で始めて、凍結死骸からのクローニングに成功しました。
16年間凍結保存されていたマウスの死骸の脳細胞から核を取り出し、クローンを作ることに成功したんです。
既にこの世に居ない個体と全く同じ遺伝子型を持つ子を誕生させる事ができます。

6番目の例も体細胞クローンですが、親と子が異なる種の場合です。
クローンとは異なる技術として、異種動物間の免疫学的障壁の排除があります。ヤギと羊では染色体の本数が違います(ヤギ:2n=60本,羊:2n=54)。つまり雑種を作らないんです。そして、お互いの胚を移植しても、妊娠は継続しません。これは、繁殖障害と呼ばれます。
でも、内細胞塊がヤギ胚で、栄養膜細胞層がヒツジ細胞となるような状態を作ると、ヒツジがヤギを生むことが可能なんです。
勿論、このような異種動物間の胚移植は近親種に限定されるのですが、絶滅危惧種のガウルという野生牛のクローン胚を家畜の牛に移植し、出産させた例があります(家畜牛:2n=60,ガウル:2n=58)。
つまり、その個体と全く同じ遺伝子型を持つ子が、他の種から生まれたわけです。
※このガウルは、感染症のため48時間後に死亡しました。

7番目は、一連の話の元となったニュース。マンモスの再生に近い例です。
このような絶滅種の再生でさえ、既に行われています。下のリンク記事にあるように、絶滅したブカルド(別名:ピレネーアイベックス)皮膚サンプルから抽出した核を、家畜ヤギにクローン胚を移植したんです。絶滅したといっても、絶滅危惧種だったのが、近年最後の個体とされた1頭が死亡したので、クローニングを試みたものになります。
じつは、複数のクローン胚が、近親種のスペインアイベックスや他の亜種、ヤギとアイベックスの雑種などに合計208個も移植したそうですが、妊娠したのは7例。そして実際に誕生したブカルドは1頭だけで、それも誕生後に呼吸不全で死亡しています。
免疫学的障壁の排除が、まだ不十分だという事なのでしょう。
ナショナルジオグラフィック ニュース『絶滅した動物種で初のクローン作成(リンク)』

そして最後、8例目はまんまマンモスの再生です。
こちらは、完全な絶滅種。生きているのを見た人が現存しない生き物をクローン技術でよみがえらせようというものです。
技術的には、5例目と、6・7例目の合わせ技。つまり凍結保存されていた個体を使って、体細胞クローンを作ります。そして、代理母には、ゾウを使うという物です。

5例目以降は、全て体細胞クローンの例なのですが、如何でしたか?
因みに、私の感想というか、考察は次回ご披露しようと思います。

驚異のクローン豚が人類を救う!?

驚異のクローン豚が人類を救う!?
価格:1,890円(税込、送料別)


タグ:クローン
nice!(7)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 7

コメント 2

北海道大好き人間

ソメイヨシノの件は、何かの話で聞いていました。要するに「種」で増えないということですよね。

>3番目の例は、受精卵によるクローンです。
体外受精も、この様に一つの受精卵を2つか4つに分割して子宮に戻すか、もしくは複数の卵子を受精させてから子宮に戻すかのいずれかを行っているはずです。
ですが、双子ならまだしも三つ子や四つ子(子宮に戻した卵子の数だけ)というたくさんの子供が一気に生まれる可能性もあるわけでして、母体やその後の経済的負担も大きいということが問題視されています。

この他、「代理母」による出産も、倫理面での問題がありますね。


by 北海道大好き人間 (2011-01-26 15:37) 

optimist

北海道大好き人間 さん、こんばんは。
人間以外の生物に対する場合でも、人によって様々な捉え方をされるクローン技術ですが、人間の妊娠・出産に関わる技術の場合は、更に輪をかけて倫理的な問題が複雑になりますよね。
私も、人を含めた倫理的問題については言及するのを避けました。
by optimist (2011-01-28 00:07) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。