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人為的なクローンについての考察 [科学系よもやま話<クローンの話>]

前回、人間の手が介在するクローンについて8つの例を挙げました。
皆さん、どう感じたでしょうか?
基本的に下の例に行くほど、抵抗を感じる人が多いと思われる順にしたつもりです。

どの例も、人為的にクローン生物を生み出しているという点は同じです。このように多数の例を挙げたのは、クローンに抵抗を感じるという人(或いは感じない人)が、どこに判断基準を持っているかを把握しやすいと思ったからです。

それでは、予告通り、昨日示した例を使って、クローンに対する印象について考察してみましょう。ただ、例5以降での考察については、話が長くなりそうなので割愛します
(つまり、既に死亡している個体の再生の是非、異種の代理母を使う事の是非、その複合、更には失われた種のクローニングの是非という部分です)。読まれている皆様が個別に考えて頂ければと思います。

また、クローンにする対象が人間になっちゃうと、かなり議論が錯綜しそうなので、あくまで動植物限定で話を進めます。

1)挿し木・・・ソメイヨシノのクローン
2)個体の切断・・・プラナリアのクローン
3)受精卵の切断・・・初期胚を切断して戻す事による人為的双子
4)体細胞クローンドリー。或いは、クローン牛(夢福 -I,夢福 -II)
5)マウスの凍結死骸からのクローニング
6)絶滅危惧種ガウルのクローン、ノア
7)絶滅種ブカルド(別名:ピレネーアイベックス)のクローン
8)マンモスのクローン
※お手数ですが、各例については、昨日の記事をご覧下さい。ここでは、簡単にタイトルだけ記載します。

【○:無し ×:例1~4】
多分どれも駄目だという人は、殆どいらっしゃらないと思います。こう考える方は、恐らく自然に対し、人間が影響を与える事を良しとしない考えでしょう。全てはあるがままにという考えに基く判断だと思います。

【○:例1 ×:例2~4】
では、これまた少数派だと思いますが、例1と2の間で×という人は、どうでしょう?
挿し木で植物を増やす事はなんともないけど、プラナリアを切断して個体数を増やすのは嫌って人は動物と植物の違いではないでしょうか。肉を食べるのは野蛮だと言う様な菜食主義は、これと同じ倫理観なのかもしれません。植物なら良くて動物なら駄目って考えですね。

【○:例1,2 ×:例3,4】
次は、例2と例3の間で×という人です。これは、ある程度居そうです。違いとしては、切断するものが個体そのものなのか、或いは初期胚なのかです。どちらも、切断してもそれぞれが再生したり成長するので、生命は失われず、同一遺伝子型を持つ個体が増える点で同じと言えます。切断しても平気という能力は、自然に備わったもので、人間が行ったのは切断という点では同じはずですよね。
でも、切断する対象が初期胚となると禁忌と感じる人が居るのも確かです。これは、人の体内は神聖な物とする思想が根底にあるのかもしれません。手術でさえNGという人も居ますからね。或いは、受精卵に何かをする事に対する禁忌なのかもしれません。

また、全く別の基準で決めた人もいるかもしれません。上の植物にはやって良いが動物は駄目という考えに通じるものです。つまり、プラナリアなら良いが哺乳類だと駄目という基準です。この考え方は、意外に多いと思います。
クローニングではありませんが、、牛・豚・馬は食べて良いけど、鯨やイルカは駄目というのも、同じ理屈だと思います。そして、この場で議論を避けた人間の取扱い。人間だけは特別であるというのは、ある意味これらの主張の一種とも考えられそうです。

【○:例1~例3 ×:例4】
最も多いのは、ここで違和感を感じる人かもしれないのが、例3と例4の間です。
100%自然界では有り得ない形(無性生殖などは除きます)でのクローンに疑問を感じる人は、少なくないはずです。
ところが、この段階までの技術は、既に実用化されていて、既に紹介している様に、和牛のスーパー種牛の確保などが行われています。

論理的に考えれば、初期胚を切断する事で双子胚を得る事と、未受精成熟卵子の核を入れ替えてクローン胚を得る事の違いを除けば、それ以降は例4と例5で違いはありません。
という事は、世代を交代したのに、遺伝子型が同一である事が禁忌なのでしょうか?挿し木でソメイヨシノが同一遺伝子型なのは良いのに、親と子が同じ遺伝子型だと疑問を感じるというのは、出産という行為を経たという点が大きく印象を変えているのかもしれません。つまり、経験に外れた事象に対する抵抗です。出産で生まれた命は、両親の形質を受け継ぐものだという経験に外れるという訳です。良く知らないもの、経験が無いものに抵抗を感じるのは、本能です(一方で、逆に良く知らないものに興味を持つ好奇心も本能です)。それが危険かどうか分からない物を避けるのは、生きていく上で必要なことなのです。

ここで、突飛な話かもしれませんが、次の二つの例を比較して見て下さい。
①子がクローンである生物は居るが、牛はそうではない。でも人間の力で牛をクローンで世代交代させた。
②空を飛ぶ生物は居るが、人間はそうではない。でも人間は飛行機を使って空を飛んだ。
両者の違いは何でしょう?
一つの見方では、同じ事となります。本来持っていない別の生物の能力を付与したという点で、なんら変わりありません。そして、どちらも登場初期には神の領域を侵す禁忌とされました。そして、今では飛行機は多くの人に認知されています。

ただ、別の見方も当然あります。両者には他にも違いがある。生命の誕生に関わっているか否かという見方です。しかし、この考えに基くなら、生命の誕生に関わる技術一切を否定しないのは何故か?という疑問が出ます。つまり例3と4で判断を変える理由は何か?です。

或いは、もっと狭い領域として、未受精成熟卵子の核を入れ替えるという行為を禁忌と感じるのかもしれません。しかし、これも例3を良しとするなら、初期胚に手を出すのを良しとする一方で、受精すらしていない未受精成熟卵を特別視する理由が何かを考える必要がありそうです。

となると、核の交換が禁忌事項なのでしょうか?
少し横道に逸れますが、心臓移植などの臓器移植に抵抗が無いのに、脳の移植を行う(技術的に可能かは置いておく)のは駄目だという考え方があります。これに近いのかも知れません。このような考えに配慮した(?)物として、移植用に脳や神経系が無い人間のクローンを作ろうという研究があります。実際に行われているのは、無脳カエルのクローン作成です。脳が無いなら、禁忌じゃないよね?って話。
話を戻すと、つまり、脳とはその人間を形作る侵さざるべき物、核もその命のありようを決める侵さざるべき物という考え方です。

【○:例1~例4 ×:無しor例5以降のいずれか】
さて、例4もクリアしちゃう人も相当数いるはずです。
そもそも未受精成熟卵に何かしていても、生まれてきた命は自然界のそれと同じです。ただ一点遺伝子型が全く同じ親が居るという点をのぞけばですが・・・。そして、その過程も途中からは通常の妊娠・出産と変わることがありません。

私の個人的感想としては、このグループに該当する人は、遺伝工学やクローンについて殆ど知らない人と非常に理解している人に多そうです。まず、知らなければ、見かけ上違和感を感じる事が無いので抵抗が無い技術に思えます。一方で、何をしているのかを知ると、上でも書いたような未知なものへの抵抗を感じるかもしれません。ところが、理解を深めていくと、未知ではなくなる事で、その抵抗が薄まるように思えるからです。
或いは、飛行機のように、当たり前の技術として巷に溢れる事でも抵抗を感じない人が増えていきます。
私としては、同じこのグループに属していても、何も知らないから抵抗が無いというのではなく、知った上で反対或いは賛成する人が増えるのが好ましい状態だと考えています。

勿論、そもそも命(あるいは哺乳類や特定の生物)に手をつけるべきではない等の、本質的な所で忌避する人もいるでしょう。その場合でも、何をしているのか?どんなリスクがあるのかを知る事は必要では無いでしょうか。知らずに批判するまでは許せても、批判を続けながら知る努力をしないのは愚かなことだと思います。

勘違いして欲しくないのは、私自身は、様々な考え方そのものを否定する気は無いという事。押し付けられるのは迷惑ですが^^;
そして、遺伝子工学を学ぶ事と、命に尊厳を感じる事は、全く別次元の話だと言う事も書いておきたいのです。マンモス復活なんて命に対する冒涜だという人が居ます。では、それを研究する人は、命を軽く見ているのでしょうか?もしかしたら、批判した人以上に、命の重さを感じているかもしれませんよ。

話が飛躍するかもしれませんが、食用の家畜を育てる人、加工する人は家畜の命を軽んじているから出来るのでしょうか?違いますよね。軽く感じている、或いは無関心なのは、スーパーの店頭で加工された肉として買ったり料理になったものを食べている人なのでは無いでしょうか?

さて、今回もかなりの長文となってしまいましたが、お付き合い頂きありがとうございました。

次回は、生命に対する畏怖、或いは上で例を挙げた禁忌についての考えとは別の切り口で、クローン技術を用いた絶滅(危惧)種のクローニングの可能性と懸念点をご紹介して、クローンに関しての話を終えたいと思います。

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北海道大好き人間

やはり、下へ行けば行くほど遺伝子工学と倫理観との関わりが重要になってきますね。
これに「究極の不妊治療」として、「(戸籍上ハッキリ認められた)夫婦の細胞からクローン人間を作る」という項目を加えたらどうでしょうか??

by 北海道大好き人間 (2011-01-27 15:58) 

optimist

北海道大好き人間 さん、こんばんは。
クローン技術の人間への転用は、当分許可されないでしょうね^^;
特に日本では・・・。
不妊治療がらみの法整備も、なかなか進みませんし・・・。
そもそも遺伝的には他人でも出産したら戸籍上は母子で、遺伝的には夫婦の子どもであっても、代理出産で生まれたら実子にならないって、個人的には違和感バリバリです。
by optimist (2011-01-28 00:10) 

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