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絶滅(危惧)種のクローニングの可能性と懸念点 [科学系よもやま話<クローンの話>]

こうのとり2号機のン22時15分からのISSとのドッキング中継、皆さんご覧になりましたか?
先ほど、無事ドッキング(ボルトの固定などはまだこれからですが)となりましたね。おめでとうございます♪

前振りとは全く関係ありませんが、今日もクローン技術についての話です。
体細胞クローンを含むクローン技術は、現在では既に実用化され、知らず知らずにその恩恵を受けています。

これに対して、絶滅(危惧)種のクローニングという技術は、大きな可能性がある一方で、懸念点も指摘されています。今回は、クローンや生命工学に対する批判とは切り離して、これらについてご紹介しようと思います。

【絶滅種のクローニング】
一番最初に思いつくメリットは、生物多様性が失われても再生できるかもしれないという事です。しかし、これには大きな誤解があります。単に1個の個体を再生する事は出来ますが、種を再生させるには一定の数(遺伝子の多様性)が必要だからです。

例えば、ある動物の細胞を保管したとして、そのクローンを増やしたとしても、全て同じ遺伝子型ですから、遺伝子で見たら、全く多様性はありません。例えば、食用にするとか、観賞用にするとか、或いは医薬品を作る材料とするなどの用途で行うなら、極端な話1個体の遺伝情報さえあれば(特に雌なら)クローニングは可能です。雄の個体だけだと出産をいつまでも別種に依存する事になるので、雌雄一対が最小単位でしょうか。

しかし、こうして復活させた彼らは、全て同じ遺伝情報しか持っていませんから、自然に繁殖して種として安定する可能性は、非常に低いのです。

仮に多数の個体の遺伝情報を得て、それぞれのクローンを作成できたといます。その場合も、越えなければならない壁があります。
それは、その種の生態が分からなければ、種の再生は出来ないということです。例えば、生息環境、餌などです。

具体的には、親が子を育てるような動物の場合、親(或いは群れ)が無いのが問題になります。

親を失った動物を人間が代わりに保護して、育てる場合、やり方によっては、二度と野生に戻せなくなります。ところが、絶滅種の場合、もし生態が分からなければ、野生に戻す訓練のしようがありませんよね。
そのまま個体数だけ増やしても、再び野生で暮らすのが困難だという事は、明らかです。また、仮に野生化したとしても、本来の姿とは全く違った物かもしれません。

また、野生種として再現させなくても良い。観賞用など1個体を成長させるだけで良いという場合であっても、遺伝情報だけでは困難です。
例えば餌の問題です。この世に生を授ける事ができたとしても、然るべき時に、最適な餌を提供しなくてはなりません。

仮に、コアラが絶滅したとしましょう。コアラの生態が分からないままクローンコアラが生まれたら?と考えてみてください。
最初は母乳を与えなければなりません。その後、離乳期を経てユーカリの葉を食べるわけですが、そもそも母乳の組成は?ユーカリしか食べない事をどうやって知れば良いのでしょう?
更に、餌のユーカリを確保できたとしても、親の居ないクローンコアラは、腸内の共生細菌が居ないので、ユーカリを食べても生きていけないのです。本来、野生では、離乳期に親の糞を食べる事で、共生細菌を獲得するのですが、クローンで復活したとしてもこのようなプロセスを経る事が出来ません。

つまり、詳しい生態が分からなければ、成獣にさせることさえ困難なのです。
 
クローン技術そのものとは別に倫理的な問題も存在します。
仮に、山積する課題をクリアして、絶滅種を野生に放つことが出来たとします。これは、外来種を持ち込む事と何が違うのか?という問いです。外来種による生態系の破壊と、生物多様性の消失という問題を我々は知っています。ある種の生物の生きる場所を移動させた事が原因です。絶滅種では、ある意味生物の生きる時間を移動させたようなものだと思います。
結果として、現在の生態系の破壊と、生物多様性の消失を引き起こしてしまうかも・・・。

【絶滅危惧種のクローニング】
では、絶滅種ではなく絶滅危惧種の保護に使用する場合はどうでしょう?
自然淘汰ではなく、環境破壊で生存を脅かされる生物が居ます。或いは人間による乱獲によってです。人によってはそれも含めて淘汰だと意見もありますが、ここでは、ひとまず置いておきましょう。

絶滅危惧種においても、クローニングは遺伝情報の多様性という面では全く寄与しません。個体数がいかに増えても遺伝情報は一通りなのですから。
現状では、効果があるとすれば、繁殖の機会を増やすという一点においてという事になるでしょう。遺伝子の多様性という点では変化しませんが、個体数が一定以上減ってしまうと、繁殖機会が失われ、急速に多様性が失われます。しかし、クローンであっても個体数が増えれば、これを食い止める事ができるからです。
但し、子孫には色濃く特定の遺伝形質が伝わってしまうのは、避けられないでしょう。

また、仮にクローニングで個体数が増えたとしても、生息環境の破壊から絶滅が危惧されているなら、結局のところ、野生では生きられないでしょう。何しろ生息環境が破壊されているので、再び個体数が減るのが目に見えています。
となると、絶滅危惧種を危機から救うのは、クローニング(だけ)では無理という気がします。

つまり絶滅危惧種を保護するには、遺伝情報をプール(そしてクローニング)するだけでは、解決にはならないと思えるのです。やはり、今を大切にすべきであり、一度失われた物を再び手に入れる事は出来ないと考えるべきでしょう。代わりの物や良く似た物を手に入れる事は出来るでしょうが、それは、失ったものと同一では無いのですから・・・。

という訳で、まとめとしては、失う前に気が付いて行動しようって所でしょうか?安易にクローニングに頼っても駄目よってね。

さて、長文ばかりのシリーズとなってしまいましたが、お付き合い頂きありがとうございました。
次回からは、またその日その日で気になった事を書いていきたいと思います。

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コメント 4

モッズパンツ

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      ∧_∧\ /     ドッキング成功の
       (・ω・)∞       祝杯を用意しましたw
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       ∪ ∪  ⌒⌒⌒⌒⌒


by モッズパンツ (2011-01-28 00:39) 

北海道大好き人間

>その種の生態が分からなければ、種の再生は出来ないということです。例えば、生息環境、餌などです。

日本ではトキが、中国ではジャイアントパンダが典型例でしょうか?
昨年末に話題になった私の地元・西湖で発見されたクニマス(亜種?)も、クローン技術で増やそうとする可能性も否定できませんが、それが果たしていいことなのかどうなのか、結論は簡単に出ませんね。

by 北海道大好き人間 (2011-01-28 13:14) 

optimist

モッズパンツ さん、こんばんは。
素敵なアスキーアートありがとうございます。
by optimist (2011-01-29 23:56) 

optimist

北海道大好き人間 さん、こんばんは。
クローン技術が進み、現実に可能な事が増えているというのは事実ですが、一般市民の認知度の低さ(これは立法府である国会でも似たようなものかな?)とのギャップが年々拡大している気がします。
技術の確立と、その実用化・運用に越えなきゃならない壁があるのでしょうね。
或いは、何も法的に整備されず、一般へのコンセンサスも取らないまま、一部の企業なり科学者が暴走する可能性も否定し得ないような・・・。
by optimist (2011-01-30 00:00) 

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