SSブログ

米科学誌「サイエンス」における「はやぶさ」特別編集号の発行について [科学系よもやま話]

JAXA(宇宙航空研究開発機構)は、小惑星探査機「はやぶさ」によって採取された小惑星「イトカワ」の微粒子のカタログ化を進めているそうです。
その中で、初期分析の成果の一部が2011年8月26日発行の米科学誌「サイエンス」表紙を飾るとともに、6編の論文(以下の1~6)が掲載されていますので、ご紹介します。
Science Magazine Hot Topic『Hayabusa—Dust from Itokawa(リンク)』

1)『Itokawa Dust Particles:A Direct Link Between S-Type Asteroids and Ordinary Chondrites(リンク)』
2)『Oxygen Isotopic Compositions of Asteroidal Materials Returned from Itokawa by the Hayabusa Mission(リンク)』
3)『Neutron Activation Analysis of a Particle Returned from Asteroid Itokawa(リンク)』
4)『Incipient Space Weathering Observed on the Surface of Itokawa Dust Particles(リンク)』
5)『Three-Dimensional Structure of Hayabusa Samples:Origin and Evolution of Itokawa Regolith(リンク)』
6)『Irradiation History of Itokawa Regolith Material Deduced from Noble Gases in the Hayabusa Samples(リンク)』

これらの論文は、どれも小惑星探査機「はやぶさ」によって採取されたサンプルを解析していますが、その解析方法が異なります。
詳しくは、後日ご紹介する(かどうかは分りませんが^^;)として、以下にそれぞれの研究成果について、要約しておきます。

1)小惑星イトカワの微粒子:S型小惑星と普通コンドライト隕石を直接結び付ける物的証拠
高解像度電子顕微鏡やSPring-8の放射光X線で38個の微粒子を分析、鉱物を分析した。その結果、イトカワの微粒子の特徴が普通コンドライト隕石のLL型と非常に良く一致することが分かった。また、イトカワは母天体が大きな衝突破壊された後、再集積したものだと推測されるという内容。

2)はやぶさ計画によりイトカワから回収された小惑星物質の酸素同位体組成
二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により、酸素同位体組成(酸素16、17、18)を求めた結果、普通コンドライト隕石のLLまたはL型の物と一致したという内容。

3)小惑星イトカワから回収された粒子の中性子放射化分析
京都大学原子炉実験所の研究用原子炉(KUR)を使った中性子放射化分析法を行った。その結果、ナトリウム、スカンジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、イリジウムの8元素について含有量を求めることができ、Fe/Sc比、Ni/Co比は地球表面の岩石試料の持つ値と明らかに異なり,太陽系形成当時の物質であると考えられているコンドライト質隕石の値に等しいことが分ったという内容。

4)はやぶさサンプルの3次元構造:イトカワレゴリスの起源と進化
マイクロX線CT装置を使って微粒子40個の3次元構造を調べ、粒子内の鉱物の3次元分布を解析した。その結果、普通コンドライトのLL型に類似していた事が分った。また、月のレゴリスとイトカワのレゴリスの違いも明らかになったという内容。

ここまでの内容から、イトカワが分類されるS型小惑は普通コンドライトと同一、つまり地球に降り注ぐ普通コンドライトの多くは、S型小惑由来だと考えられるという説を支持する結果が得られています。
しかし、普通コンドライト隕石とS型小惑星の反射スペクトルには違いがあります。この点を解決するのが次の論文です。

5)イトカワ塵粒子の表面に観察された初期宇宙風化
微粒子を0.1μm厚で薄くスライスして、断面を電子顕微鏡で調べ結果、表面が宇宙風化により変質している事が分った。つまり、表面から50nm程度の深さまでには、鉄を含んだ数ナノメートルの微粒子がであり、その影響で反射スペクトルが変化していることが確認できた。つまり、表面が風化する事で、反射スペクトルの違いが出ていただけで、やはり普通コンドライト隕石とS型小惑星は同一起源の可能性が高いという内容。

6)ハヤブサ試料の希ガスからわかった、イトカワ表層物質の太陽風および宇宙線照射の歴史
レーザー加熱法による希ガス抽出法と新たに製作した希ガス精製ラインを用いて、微小粒子3個の希ガス同位体分析を高感度質量分析計により行った。これにより粒子がイトカワ表層起源であることを証明すると共に、イトカワ表層物質が百万年に数十センチメートル以上の割合で宇宙空間に失われつつあると推測されたという内容。

これらの論文が正しければ、
地球に多数飛来する隕石(普通コンドライト隕石)は、イトカワなどのS型小惑星と呼ばれる小天体が起源だとする仮説の物的証拠が多数得られ、イトカワの形成過程や、表層部の粒子の飛散状況が推測された結果、10億年後にはイトカワが消滅する可能性があることが分ったという訳です。

これから、まだまだイトカワからサンプリングされた粒子の分析を基にした論文が発表されるでしょうから、楽しみですね♪
nice!(10)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 10

コメント 2

北海道大好き人間

論文の内容はともかく、肉眼では見ることが難しい微粒子からよくここまで分析できたものだとつくづく思います。

by 北海道大好き人間 (2011-09-14 18:35) 

optimist

北海道大好き人間 さん、こんばんは。
これから、続々と論文が発表されるでしょうが、本当にあれだけの資料から様々な研究を行う方々には、頭が下がります。
by optimist (2011-09-20 21:21) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。