地球の海、彗星が起源の可能性 [科学系よもやま話<宇宙の話>]
一昨日、ちょっとご紹介した英国の科学誌Nature(ネイチャー)に掲載された論文について、もう少し詳しくご紹介します。
本当は、昨日連続した記事として掲載しようと思っていたのですが、執筆が間に合いませんでした^^;
さて、この報告は、欧州宇宙機関(ESA:European Space Agency)のHerschel宇宙望遠鏡を用いた研究成果です。
それによれば、Herschel宇宙望遠鏡に搭載された赤外線装置を用いて、Hartley 2と呼称される彗星の核の氷を分析したところ、地球上の海と似た重水素比を持つという結果が得られたというのです。
Credit: NASA/JPL‐Caltech
『Ocean‐like water in the Jupiter‐family comet 103P/Hartley 2(リンク)』(Nature(2011) doi:10.1038/nature10519)
重水素(Deuterium)とは、水素の同位体のひとつです。
そもそも水素原子は、1つの陽子からなる原子核の周りを1つの電子が回っているものです。これに対して、重水素は、原子核が陽子1つと中性子1つとで構成されています。中性子1つ分だけ水素より重いわけです。原子核にさらに中性子が多く、原子核が陽子1つと中性子2つとで構成されている三重水素(Tritium)も水素の同位体です。
これらの同位体を表す記号として、通常の水素の原子記号Hに対し、重水素にD、三重水素にTが、用いられる事も多いです。
そして、重水素を含むような水を重水と呼び(広義では、H2Oに対し、D2Oだけでなく、DHO、THOの他、酸素が同位体の場合も重水に含まれますが・・・)、原子炉の減速材、、ニュートリノの検出、比較的身近な所ではNMR解析用の溶媒などに利用されています。そして、核融合炉の燃料として期待されてもいます。
水を電気分解するとD2よりH2の方が発生しやすい特性があり、簡単に重水を濃縮していくことができますが、重水素は安定同位体なので、濃縮されることはあっても地球上全体でみれば、H:D比は基本的に変化しません。
現在知られている、海水中の水素に含まれる重水素の存在比率は、0.01558(±0.00001)%と言われています。
ここで、紹介した論文によれば、従来のオールトの雲由来の6つの彗星のD/H値は、平均すると0.0296(±0.0025)%。炭素質コンドライトの値は0.014(±0.001)%
これに対し、カイパーベルトに起源を持つと考えられる木星系の彗星Hartley 2の場合、0.0161±(0.0024)%と地球上の水と非常に近いD/H比を持つことが分かったと言うのです
これが、何を意味するのか・・・?
約40億年前、後期重爆撃期と呼ばれる時期、地球上には数多くの彗星や小惑星が衝突したと考えられています。この時、地球に衝突した彗星によって、現在地球の海を満たしている膨大水がもたらされたとする説があります。
今回のHartley 2の重水素比が地球上のそれと近い値であった事が、この説を裏付ける証拠の一つと考えられるわけです。
Credit: NASA/JPL‐Caltech
隕石や彗星からは、水だけでなく、生命の元或いは生命そのものが運ばれてきたと考える人も少なくありません。
今後の研究成果が楽しみです。
本当は、昨日連続した記事として掲載しようと思っていたのですが、執筆が間に合いませんでした^^;
さて、この報告は、欧州宇宙機関(ESA:European Space Agency)のHerschel宇宙望遠鏡を用いた研究成果です。
それによれば、Herschel宇宙望遠鏡に搭載された赤外線装置を用いて、Hartley 2と呼称される彗星の核の氷を分析したところ、地球上の海と似た重水素比を持つという結果が得られたというのです。
Credit: NASA/JPL‐Caltech
『Ocean‐like water in the Jupiter‐family comet 103P/Hartley 2(リンク)』(Nature(2011) doi:10.1038/nature10519)
重水素(Deuterium)とは、水素の同位体のひとつです。
そもそも水素原子は、1つの陽子からなる原子核の周りを1つの電子が回っているものです。これに対して、重水素は、原子核が陽子1つと中性子1つとで構成されています。中性子1つ分だけ水素より重いわけです。原子核にさらに中性子が多く、原子核が陽子1つと中性子2つとで構成されている三重水素(Tritium)も水素の同位体です。
これらの同位体を表す記号として、通常の水素の原子記号Hに対し、重水素にD、三重水素にTが、用いられる事も多いです。
そして、重水素を含むような水を重水と呼び(広義では、H2Oに対し、D2Oだけでなく、DHO、THOの他、酸素が同位体の場合も重水に含まれますが・・・)、原子炉の減速材、、ニュートリノの検出、比較的身近な所ではNMR解析用の溶媒などに利用されています。そして、核融合炉の燃料として期待されてもいます。
水を電気分解するとD2よりH2の方が発生しやすい特性があり、簡単に重水を濃縮していくことができますが、重水素は安定同位体なので、濃縮されることはあっても地球上全体でみれば、H:D比は基本的に変化しません。
現在知られている、海水中の水素に含まれる重水素の存在比率は、0.01558(±0.00001)%と言われています。
ここで、紹介した論文によれば、従来のオールトの雲由来の6つの彗星のD/H値は、平均すると0.0296(±0.0025)%。炭素質コンドライトの値は0.014(±0.001)%
これに対し、カイパーベルトに起源を持つと考えられる木星系の彗星Hartley 2の場合、0.0161±(0.0024)%と地球上の水と非常に近いD/H比を持つことが分かったと言うのです
これが、何を意味するのか・・・?
約40億年前、後期重爆撃期と呼ばれる時期、地球上には数多くの彗星や小惑星が衝突したと考えられています。この時、地球に衝突した彗星によって、現在地球の海を満たしている膨大水がもたらされたとする説があります。
今回のHartley 2の重水素比が地球上のそれと近い値であった事が、この説を裏付ける証拠の一つと考えられるわけです。
Credit: NASA/JPL‐Caltech
隕石や彗星からは、水だけでなく、生命の元或いは生命そのものが運ばれてきたと考える人も少なくありません。
今後の研究成果が楽しみです。
【送料無料/販売中】【ポイント10倍!】【 送料無料 】【 ポイント10倍! 10P05Oct11 】〔予約... |
このブログを拝見していて、僕も理学部物理学科卒だったのを思い出しました。応用物理学の研究ではいろいろ人類の生活に役立つ成果をあげているけれど、基礎物理や原子物理学でも人類の発展に貢献するような発見や発明がもっとあってもいいですね。
by david (2011-10-11 08:36)
詰まるところ、水(生命)はどこからやってきたのか考えれば考える程深みにはまります。
この記事の説が正しければ、彗星には生命が宿っていたことになりますし、ハレー彗星みたいに回遊しているのであれば、遠い未来にまた地球へやってくるかも知れません。
by 北海道大好き人間 (2011-10-11 14:45)
david さん、こんばんは。
理学部物理学科なのですね。私も同じく理学部ですが化学科卒です。
>基礎物理や原子物理学でも人類の発展に貢献するような発見や発明がもっとあってもいい
そうですね。
物理分野だと、核物理とか宇宙物理などの分野の方が注目されているのでしょうか?
by optimist (2011-10-15 23:45)
北海道大好き人間 さん、こんばんは。
こんかいご紹介した説だと、回遊してくるというより、地球に落下した彗星のコアを起源とする考えのようです。
それにしても、再びこのような隕石の重爆撃を今受けるような事があったらと考えると、ゾッとしますね^^;
by optimist (2011-10-15 23:47)